ウイルスの進化の機会を減らすワクチン

 以前のコロナウイルスによる死者数は時間の経過とともに減少していったが、人とSARS-CoV-2とが比較的安全に共存できるようになるまでの道のりには、さまざまな障害があるかもしれない。特にウイルスの中期的な影響は、その進化の程度によって大きく変わるだろう。

 SARS-CoV-2は新しく複製されるたびに、突然変異によってより効率的に人間に感染できるようになる可能性がある。

 人間の免疫系は、重大な病気から体を守ってくれる一方で、ウイルスが人間の細胞にさらに効率的に結合できるよう、進化をうながすふるいのような役割も果たしている。今後数カ月から数年間のうちに、わたしたちの免疫系がこうした変化にどれだけついていけるのかが明らかになってゆくだろう。

 また、SARS-CoV-2の新たな変異株によって、ワクチン接種の普及や、マスクの着用、社会的距離の確保といったその他の感染防止対策はより一層重要なものになる。ウイルスの拡散が抑えられるほど、進化の機会は少なくなるからだ。

変異株 VS ワクチン

 現在のワクチンは、最初に英国で発見されたB.1.1.7系統のような変異株に対しても十分に効果を発揮し、多くの患者の重症化を防げると考えられている。ワクチンや自然感染は、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質のさまざまな部分を阻害する多様な抗体を作り出す。これはつまり、一度の変異だけでは、ウイルスが人間の免疫系をすり抜けられるようにはならないことを意味している。

 ただし、将来的には変異によって、現在のワクチンに部分的に抵抗できる変異株が生まれるかもしれない。11月19日に査読前の論文を投稿するサーバーの「bioRxiv」投稿され、1月19日に更新されたデュプレックス氏らの論文は、SARS-CoV-2ゲノムのスパイクタンパク質領域の一部がなくなる変異は、特定のヒト抗体の結合を妨げることを示している。

 また別の研究からは、南アフリカで最初に発見された変異株501Y.V2が、ウイルスが抗体の網をかいくぐるのを助けることに特に長けていることがわかっている。同じく1月19日付けで「bioRxiv」に発表された査読前の論文によると、回復した南アフリカのCOVID-19患者44人のうち、21人の患者から得られた血液の抽出物で、501Y.V2変異株を中和する効果がみられなかったという。ただし、この21人の症状は軽度から中程度であり、彼らの抗体レベルはそもそも低かった。501Y.V2変異株を中和しなかったのはそのせいかもしれない。

 これまでのところ、現在認可されているワクチンは、懸念されている大半の変異株に対して有効であると考えられている。1月19日に「bioRxiv」に発表されたまた別の査読前論文によると、ファイザー・ビオンテックあるいはモデルナ社のワクチンを接種した20人の抗体は、新たな変異株に対し、以前の場合ほどはうまく結合しなかったという。それでも、結合をしたことは確かであり、これはワクチンが重症化に対する防御となることを示唆している。

 新しい変異株がもたらす脅威はほかにもある。B.1.1.7などの変異株は、初期のSARS-CoV-2よりも感染力が高いと考えられ、これが制御不能なほどに拡散すれば、より多くの人が重症となり、それによって世界中の医療システムが圧迫され、死者数もさらに増加する危険性がある。ベルドエン氏は、新規変異株はまた、回復したCOVID-19患者の再感染のリスクも高める可能性があると述べている。

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