「ただの風邪」になるまでの長い道のり

 先に述べたように、COVID-19の未来を左右する重要な要因の一つは、わたしたちの免疫だ。SARS-CoV-2を含め、病原体に対する免疫の働きは照明のスイッチのような「つくか」「つかないか」といった二択ではなく、むしろ光の強さを加減できる調光スイッチに似ている。人間の免疫系は、病原体をさまざまなレベルで防御できる。自分や他人への感染を必ずしも防ぎはしなくとも、症状が重症化するのを食い止めてくれることもある。

 4種類のヒトコロナウイルスによる風邪がごく軽症で済むのは、おおむねそうした防御の効果だ。学術誌「Infectious Diseases」誌に掲載された2013年の研究によると、人間は平均3歳から5歳の間に、4種類のコロナウイルスすべてにさらされるという。

 幼い時期での感染は、体のその後の免疫反応の基礎をつくる。自然な進化によってコロナウイルスの変異株が新たに発生しても、免疫系はコロナウイルスに対抗するうえで先手を打つことができる。

「ウイルスは、それ自身の敵でもあるのです。人に感染するたびに、その人の免疫を上げることになるからです」。ポルトガル、リスボン大学の免疫学者マルク・ベルドエン氏はそう述べている。

 過去の研究からは、たとえコロナウイルスが体内に侵入することに成功しても、免疫によって重症化を防げることが明らかになっている。長期的には、新型コロナウイルスにおいてもこの点は同じだろう。

 米エモリー大学の博士研究員ジェニー・ラビーン氏は、先述の2013年の研究データに基づいてSARS-CoV-2のパンデミック後の軌跡をモデル化した。1月12日付けで学術誌「サイエンス」に発表されたその結果は、もしSARS-CoV-2がほかのコロナウイルスと同じように振る舞った場合、数年から数十年後には、軽度の症状を引き起こすウイルスに変化する可能性が高いことを示唆している。

 パンデミックから軽い病気へのこうした移行がどう進むかは、しかし、SARS-CoV-2に対する免疫反応がどの程度持続するかによって変わってくる。研究者らは現在、ウイルスに対する体の「免疫記憶」の研究に力を入れている。

 1月6日付けで「サイエンス」に掲載された研究によると、188人のCOVID-19患者の免疫反応を感染後5〜8カ月間にわたって追跡したところ、個人差はあるものの、患者のおよそ95%が測定可能なレベルの免疫反応を示したという。

 事実、風邪の原因となるコロナウイルスの一つOC43は、1800年代に深刻な流行を引き起こした後で、徐々に、ありふれた軽い症状を引き起こす病原体の一つになっていった可能性がある。OC43の系統樹に基づいて推定したところ、人の体内に入ってきたのは19世紀後半、おそらくは1890年代前半ではないかという研究結果が2005年に学術誌「Journal of Virology」に発表されている。

 このタイミングから考えて、OC43こそが1890年の「ロシアかぜ」の大流行を引き起こしたウイルスではないかと一部の研究者は考えている。このロシアかぜは神経症状の発生率が異常に高いことで知られており、同様の症状はCOVID-19にも見られる。

「確かな証拠はありませんが、これがインフルエンザではなく、コロナウイルスのパンデミックであったことを示す兆候は少なくありません」と、ベルドエン氏は言う。

次ページ:「このウイルスとともに生きなければならない」

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