モニュメントは何をたたえるか?

奴隷制を死守しようとした“反逆者”のモニュメントが撤去されている

2021.01.29
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バージニア州リッチモンドにある南軍のロバート・E・リー将軍の像。人種差別への抗議活動が続いた2020年、落書きで埋め尽くされた台座に、警察に殺害されたアフリカ系米国人たちの顔が映し出された。このプロジェクトを始めたアーティストたちは、犠牲者のほか、著名な黒人たちの肖像も投影するようになった。(PHOTOGRAPH BY KRIS GRAVES)

<編集部より>
この写真には、「F」で始まる4文字の禁句が写っていました。そうした言葉を記事中に使わず、写真でも見せないというナショナル ジオグラフィックの編集方針に従い、当該箇所を目立たないようにしてあります。ナショナル ジオグラフィックでこうした処理を施すことは極めてまれです。
この記事は、 雑誌ナショナル ジオグラフィック日本版2021年2月号に掲載された特集です。定期購読者の方のみすべてお読みいただけます。

根深く残る人種差別に抗議する声が高まるなか、奴隷制を守ろうと160年前に合衆国に反逆した南部連合をたたえるモニュメントが撤去され始めている。

 米国ケンタッキー州に住む73歳の彫刻家エド・ハミルトンが、高さ1メートルを超す台座に軽々と登った。その上にあるのは、ヨークという名の黒人奴隷の銅像だ。彼の“所有者”は、19世紀初頭の探検家ウィリアム・クラークだった。

 ハミルトンは同州最大の都市ルイビルを案内してくれていた。市内は新型コロナウイルスの影響で不気味なほど閑散としていたし、この町で起きた警察官による黒人女性ブリオナ・テイラー射殺事件をめぐる抗議活動が続いていた。

 ヨークの像は、ダウンタウンにある公園からオハイオ川が流れる北の方角を見つめて立っている。クラークとメリウェザー・ルイスが1804年から06年にかけて行ったミシシッピ川以西の探検において、ヨークは極めて重要な役割を果たしたと考えられている。2年にわたる探検の期間中、彼は基本的に自由人として活動に従事していたが、探検が終わると再び奴隷の身となったのだ。そんなヨークの功績をたたえようと、ルイビル市は2002年に記念像の制作をハミルトンに依頼してきた。

「ヨーク像で私が表現したかったのは、誇り高く意志の強い黒人男性の姿です」とハミルトンは語る。「この歴史的な人物のことを忘れてほしくなかったのです」

 北米の英国植民地にアフリカ人が奴隷として最初に連れてこられてから400年ほどがたつ。彼らと彼らの子孫がたどった道のりを紹介したり、説明したり、たたえたりする公共の記念施設はほとんどない。米国史の一部として語られることがほとんどなかったからだ。少なくとも、これまでは。

 新型コロナウイルスが世界を席巻した2020年、米国では人種差別に対する抗議活動が繰り返される一方で、米国史がどのように記憶され、称揚され、伝えられているかについて、深く考え直す時が来たようだ。1861〜65年の南北戦争で、奴隷制を守るために合衆国から離脱して戦った米連合国(南部連合)を象徴する記念像や記念碑といったモニュメント、通りの名前などが、論争の的となり、撤去や改称の対象となった。ある調査によると、こうした南部連合をたたえるシンボルは全米に1940件以上もあるという。

 南北戦争に敗れた米連合国のジェファーソン・デイビス大統領や、南軍のロバート・E・リー将軍、“石の壁”の異名をもつトーマス・ジョナサン・ジャクソン中将などをたたえる巨大な彫像やオベリスクは、とりわけ南部の諸州で長い間、公共の場を飾り立てる存在となってきた。

 さらに、街の大通りや道路、学校や公園、橋といった、より身近なところにも、南部連合にちなんだ名前が多くつけられている。そのなかには、南北戦争で合衆国に反旗を翻して戦った南軍の将校たちの名もある。推計で62万人が犠牲になったこの内戦は、米国の歴史を通じて、最も多くの死者を出した戦いなのだ。

次ページ:分断の歴史を象徴する人物たち

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