先日、米カリフォルニア州の研究室の水槽で、魚同士を対決させる実験「ピラニア vs コリドラス」が行われた。ピラニアは鋭い歯をもつアマゾンの肉食魚、コリドラスはとぼけたような顔つきをした、体長3cmほどのナマズ目の魚だ。
ピラニアはコリドラスを水槽の隅に追い詰めると、大きく口を開けて1回、2回、最終的には10回噛み付いた。しかし、コリドラスはなんでもない様子で、身をくねらせてゆっくりとその場を離れていった。少しムッとしているように見えたが、どこも傷ついてはいなかった。(参考記事:「【動画】ピラニアだらけの川に肉を放るとこうなる」)
「この魚は驚いたら素早く逃げますが、そんな反応さえ見せませんでした」と、米カリフォルニア州立大学フラトン校の生物学准教授であるミスティ・ぺイグ=トラン氏は、ほほ笑みながら説明する。「まるで『何をしているの? うっとうしいわね』と文句を言っているようでしょう?」
コリドラスはなぜ、こんな目にあっても平気なのだろう? ぺイグ=トラン氏らが学術誌「アクタ・バイオマテリアリア(Acta Biomaterialia)」に2020年11月に発表した研究によると、その秘密は彼らがまとう鎧にあるという。コラーゲンとミネラルでできた特殊なウロコが、すぐれた防御力を発揮しているのだ。研究者たちは、このウロコを模倣して従来の素材よりも強くて軽い新素材を開発できれば、防弾服などに利用できるのではないかと期待している。
ピラニアの歯から生き延びる
コリドラス・トリリネアトゥス(Corydoras trilineatus)は、英語で「アーマード・キャットフィッシュ(装甲ナマズ)」と呼ばれる、ナマズ目カリクティス科の魚である。南米のアマゾン川とその支流で、泥底の餌を探して暮らしている。
コリドラスの体長は3〜5cm程度しかないため、オオカワウソやアマゾンカワイルカなどの大型の捕食者によって丸ごと食べられてしまうことはある。けれどもピラニア、特にコリドラスに興味を持つような小型のピラニアに対しては、硬いウロコが生き延びる助けになる。
研究では、飼育下のピラニア(Pygocentrus nattereri)をコリドラスの水槽に入れた。今回の論文の著者で、現在は米チャップマン大学に所属するアンドリュー・ロウ氏は、コリドラスはやられてしまうだろうと予想していた。ピラニア愛好家が公開している動画では、コリドラスほどのサイズの魚(鎧はもたない)が餌として与えられ、ピラニアが腹を1回噛んだだけで内臓を引きずり出していたからだ。
しかし、コリドラスは生き延びた。彼らの急所はエラの周りのウロコに覆われていない部分で、ここを狙って噛まれたらひとたまりもないのだが、胸びれと背中にある鋭いトゲを広げて、ピラニアの攻撃から身を守ることができる。
ピラニアは通常、獲物の尾を攻撃するが、鎧に守られたコリドラスの尾を食いちぎるのは難しく、平均8回も噛みつかなければならなかった。腹部のウロコを突き破るにはさらに苦労していた。
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