タイの村の小さな魚類保護区 4半世紀で淡水魚が回復

75世帯が暮らす村で行われた大胆な実験が、世界の淡水生物を救うヒントに

2021.01.18
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コイの仲間の淡水魚Hypsibarbus salweenensisは、魚類保護区でよく繁殖した。この成功は、小規模な保護区であっても、ある種の魚のライフサイクル全体を保護するには十分であることを示している。(PHOTOGRAPH BY AARON A. KONING)
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 ナ・ドイはタイ北西部にある静かな村だ。1998年、この村の人々は近くを流れるンガオ川の漁獲量が減っていることに気づいた。とれる魚も小さくなっていた。そこで、ナ・ドイ村の75世帯が一丸となって根本的な解決策を試すことにした。一部の流域を禁漁区に定めたのだ。

 それから四半世紀近くが経過した今、彼らの取り組みが実を結んだ。ンガオ川の保護区は大きなバルブ(コイ科の小魚)やマハシール(コイ科の大型の魚)でいっぱいになり、村人が漁をする保護区外の流域での漁獲量も大幅に増加したからだ。ナ・ドイ村の農夫ノック・ワさん(55歳)は、「村人がプロジェクトを共有することで、村人の間に調和と一体感が生まれ、一人一人が心理的に良い影響を受けています」と言う。

「村人の多くは、心が乱されたりすると、川に魚を見に行きます」とワさんは続ける。「小さな子どもから、『どうしてこの場所の魚をとって食べてはいけないの?』と聞かれることがあります。そんなときは『食べて楽しむための魚ではなく、見て楽しむための魚だからだよ』と答えています」

 ナ・ドイ村は、ンガオ川流域で漁獲管理を実施した2番目の村だ。1990年代後半以降、ほかに少なくとも50の村々で同様の取り組みが行われている。このほど学術誌『ネイチャー』に発表された研究成果によると、こうした草の根主導の保護区は、総じて驚くほどの成功を収めているという。中でも重要なことは、こうした保護の取り組みが、海洋だけでなく淡水でも有効であると実証されたことだろう。(参考記事:「パラオの海洋保護区、その効果が実証される」

「コミュニティーを基盤とする小規模な保護区は、彼らの資源を維持し、魚類を保護するための管理戦略として非常に効果的です」と、米国ネバダ大学リノ校グローバル・ウォーター・センターのポスドク研究員で、ナショナル ジオグラフィック協会のエクスプローラーでもあるアーロン・コーニング氏は話す。「魚類の保全手段として、このアプローチを広く採用するべきでしょう」

淡水魚の危機

 事実、ナ・ドイのような取り組みは切実に必要とされている。というのも、淡水にすむ生物は陸上や海洋にすむ生物の2倍以上のペースで減少しているにもかかわらず、問題が見過ごされがちだからだ。多くの河川では、ダム、灌漑取水、汚染、砂の採掘、侵入種などにより、淡水生物が脅威にさらされている。(参考記事:「世界の巨大淡水生物、40年間で約9割も減っていた」

 問題のすべてを解決するわけではないが、淡水保護区は魚類の個体数を回復させ、漁業以外の脅威にも耐えられるようにできることは確かだ。大規模な個体群は小規模な個体群に比べて絶滅するおそれが低いうえ、遺伝的多様性が高いため適応力も高い。淡水保護区は「より大規模な保全戦略に着手するための時間稼ぎになるのです」とコーニング氏は力説する。

 東南アジアでは河川や湖における漁獲量が多いが、自治的な淡水保護区の歴史は長く、寺院のまわりの神聖な水域として確立していることが多い。ンガオ川流域の魚類保護区が最初に設定されたのは1992年で、隣人の成功を目にした周囲の村々が、徐々にこのやり方を模倣していった。

 ルールはシンプルで、旗や標識で区切られた流域では漁業が禁止されるというものだ。違反者に対する罰則はさまざまだ。例えばナ・ドイ村では、罰金は魚の大きさにかかわらず1匹につき500バーツ(約1700円)から始まり、違反回数が増えると罰金も高額になる。変わったところでは、ルールに違反した者は、精霊をなだめるためにウイスキーを12本と豚1匹を捧げなければならないという罰則をもうけた村もある。(参考記事:「【解説】最大級の淡水魚ハシナガチョウザメが絶滅」

参考ギャラリー:地味と言わないで!実は多様な淡水魚 写真18点(写真クリックでギャラリーページへ)
絶滅が危惧されるボールダー・ダーター(Etheostoma wapiti)。ペルカ科の淡水魚で、米アラバマ州とテネシー州で見られる。(PHOTOGRAPH BY JOEL SARTORE, NATIONAL GEOGRAPHIC PHOTO ARK)

次ページ:小さい保護区でも効果がある理由

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