急速に消える昆虫たち、だが希望はある、科学者らが警鐘

まるで「千の傷を受けて死に至るようなもの」、有力学術誌が大特集

2021.01.13
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 昆虫は急激に数を減らしているのだろうか。ワグナー氏の答えは「イエス」だ。では、昆虫の世界的な壊滅が間近かというと、実態はもっと複雑だという。

 米国西部で蝶の研究をするフォリスター氏は、全く異なる状況にある蝶2種の例を挙げる。

 米国南部の一部地域からメキシコ、中米にかけて分布するヒョウモンドクチョウ(Agraulis vanillae)は現在、カリフォルニア州で増えている。同州で、ヒョウモンドクチョウの好きなトケイソウを育てる人が増えているためだ。

 反対に、侵略的外来種のカラシナを好むシロチョウの仲間ラージマーブル(Euchloe ausonides)は、かつては広い範囲に分布していたが、気候変動、生息地の消失、農薬の3重苦に見舞われ、最近になって激減している。

バーベナハレイの花にとまるイチマツシロチョウ(Pontia protodice)。(PHOTOGRAPH BY ROLF NUSSBAUMER, NATURE PICTURE LIBRARY)
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 フォリスター氏の研究では、特に気候変動が蝶に与える影響に焦点が絞られている。蝶は、気候変動が原因とされる森林火災、干ばつ、荒天の脅威にさらされている。山地にすむ蝶はよりよい環境を求めて山を移動できるだろうという説もあるが、すべての種がそうだとは限らないようだ。

 オオカバマダラなどは、いつもより暖かい日が多かった2011~2015年の夏に繁殖の機会が増え、予想よりも健全な個体数を保っていた。とはいえ、西部での減少に歯止めをかけるまでには至っていない。

私たちにできることがある

 悲観的な統計が積み重なるなか、フォリスター氏とワグナー氏はまだ希望はあるという。

 2019年にドイツは、昆虫の保護、監視、研究に1億2000万ドル近い予算を出すと発表した。コスタリカも、国内に生息する全ての多細胞生物について、一部のゲノムを解読し、記録する国際団体を支援している。10年間に1億ドルを投じるこの取り組みは、無数に存在する熱帯の昆虫にとってとりわけ重要な意味を持つと、ワグナー氏は論文の紹介文に書いている。

 一般人も、市民科学者として知識基盤の拡大に協力し始めている。「iNaturalist」というアプリでは、昆虫の画像をアップロードし、種の特定と分類を誰でも助けることができる。これが、今や昆虫観察にとって最大の情報源となりつつある。

 気候変動といった大きな問題の解決には法案と新しい政策が必要だが、個人も自宅の裏庭や近所、地域で昆虫のためにできることはあると、ワグナー氏とフォリスター氏はアドバイスする。

 まず、庭での殺虫剤や除草剤の使用を控えること。そして、できれば一部を自然の状態に戻す。米フロリダ大学ゲインズビル校の昆虫学者河原章人氏は論文のなかで、たとえば米国の全ての住宅、学校、公園にある芝生の10パーセントを自然の状態に戻せば、昆虫の生息地は1万6000平方キロ(関東地方の面積のほぼ半分)以上増えると指摘している。

 在来種の植物を育て、屋外の照明を減らすのも有益だ。照明があると、夜行性の昆虫が集まってきて、時には死なせてしまうこともある。

 もっと簡単な方法として、秋に庭に落ちている枝を拾わず、土をむき出しのままにしておけば、ハチが巣を作りやすくなると、米ワイオミング自然多様性データベースの無脊椎動物学者ルシャ・トロンスタッド氏は言う。同氏は、マルハナバチの仲間(Bombus occidentalis)の減少について研究しているが、今回の論文には関与していない。また、冬前に庭の落ち葉を集めないという手もある。

「人間が少し怠けることは、昆虫にとっていいことなんです」

 トロンスタッド氏はさらに、種の運命はあっという間に良いほうにも悪いほうにも転ぶ可能性があると指摘する。氏が研究するマルハナバチの仲間は、わずか20年で93%減少した。

 一方ワグナー氏によると、絶滅が危惧されているシジミチョウの仲間カーナーブルー(Lycaeides melissa samuelis)は、再生事業によってかなり数が回復した。カーナーブルーは体が小さく、米国五大湖の端からニューイングランド地方の砂地に生息する。長い間森林火災や住宅・商業開発によって脅かされてきたが、成虫と卵に必要な植物ルピナスを植えたり、その他の生息地改善プロジェクトが効果を上げている。

 個人が殺虫剤の使用を控えたとしても、気候変動による最悪の影響を回避するのは難しいとフォリスター氏は言うが、近所の昆虫を少しは助けられるかもしれない。こうした小さな積み重ねが、やがて大きな変化となって表れるはずだ。

特集ギャラリー:昆虫たちはどこに消えた? 写真と図解15点(写真クリックでギャラリーページへ)
カバイロシジミ属のザーシーズ・ブルー。羽を広げた長さは約3センチ。約80年前に米国サンフランシスコ近郊で目撃されたのが最後だ。それは、研究者が恐れる昆虫大絶滅の予兆かもしれない。(PRESERVED SPECIMEN PHOTOGRAPHED AT CALIFORNIA ACADEMY OF SCIENCES)

文=CHRISTINE PETERSON/訳=ルーバー荒井ハンナ

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