米議会乱入事件、現場にいた記者は何を見た?

形式的な手続きで済むはずだった議会は、前代未聞の騒乱の場と化した

2021.01.12
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 空気は冷たく、何かの気配が満ちていた。これまでソマリア、アフガニスタン、イラク、イエメン、コンゴ民主共和国で感じたことのある気配だったが、米国で感じるのは初めてだった。サイレンがけたたましく鳴り響き、時折おもちゃの銃声が聞こえた。議事堂を取り囲む数千人の群衆のほとんどがマスクをしておらず、時折「USA! USA!」と唱和する声も聞こえたが、ずっと聞こえていたのは無秩序で俗悪な叫び声だった。

 その1時間前、私は議事堂内で警官からコンスティテューション通りは封鎖されたと聞いていた。しかし、実際にはそうではなかった。デモ隊は自由に歩き回っていた。警官たちは走り回っていたが、戦術的な目的があるようには見えなかった。数人は最高裁判所の階段に並んで立っていた。車を止めて取り囲み、運転手に外に出るように要求する警官たちもいた。その1人が、「こんな日に出てくるべきじゃなかったな、相棒」と話す声が聞こえた。

 デモに参加した人々の多くは、仲間意識と敗北した大統領への支持を表明するためにその場にいるように見えた。彼らがトランプ支持者であることは、赤い帽子を見れば明らかだ。彼らはおしゃべり好きで、時に熱くなりすぎることもあったが、基本的には、ごくふつうの人たちだった。

ナンシー・ペロシ下院議長のオフィスで我が物顔にふるまうトランプ支持者たち。(PHOTOGRAPH BY SAUL LOEB, AFP/GETTY IMAGES)

 敵対的な雰囲気の人々も数十人いた。彼らは男性で、ほとんどが若く、ひげを生やしていた。戦闘服を着て、何かで膨らんだ迷彩色のバックパックを背負っていた。何らかの計画を持っているかのように、彼らは数人ずつまとまって行動していた。のちの報道を目にして「あのとき見た彼らだ」と思い至ることになってもおかしくないような人々。

 第3のグループもいた。あの場所で最もこちらの心をざわつかせたのは彼らかもしれない。彼らはデモ隊というよりは、食料品店のレジの列やアメフトの試合で隣にいるような、普段は暴力に訴えたりしないであろうタイプの人々だったからだ。その1人である赤い服を着た50代ぐらいの男性は、息子と思われる2人のティーンエイジャーに、大きな震え声で「自由はただで手に入るものではない。我々の父祖がそうしたように、戦って勝ち取らなければならないこともある。今日はその日だと思う」と語りかけていた。

 私がその言葉を聞いてから約30分後、暴徒は警備を突破して議事堂内に乱入し、上院のフロアで好き勝手に暴れはじめた。下院議員と上院議員はすでに非公開の場所に誘導されていた。ワシントンD.C.市長ミュリエル・バウザーは夕方6時から市内全域を外出禁止にすると発表した。

議事堂内に乱入したトランプ支持者の一部は観光客のようにホールや廊下を見物していたが、オフィスに侵入して破壊行為を行う者もいた。(PHOTOGRAPH BY SAUL LOEB, GETTY IMAGES)

 帰りのタクシーの中で イタリアにいる友人からメールが来た。「米国でこんなことが起こるなんて信じられない!」とあった。そのメッセージをツイッターに投稿すると、スイス、オランダ、ルクセンブルクからも同様の返信があった。米国の民主主義が内側から攻撃される様子を、世界は恐怖の感情とともに見守っていた。(参考記事:「米議会乱入事件、政治家たちが発した19の言葉」

次ページ:民主主義国家の議事堂を市民が包囲することの意味

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