18世紀末、大英博物館で自然史コレクションの学芸員をしていたジョージ・ショーは、オーストラリアから送られてきた動物の皮を見て首をかしげた。それはまるで、水かきがついたカモの足とくちばしを、毛で覆われた哺乳類の胴体にくっつけたような不思議な代物だったからだ。学者でもあるショーは、最初、誰かが冗談で複数の動物の部位を縫い合わせたのかと思ったが、後に本物の動物であると認めた。(参考記事:「カモノハシが太古から変わらない理由 」)
それから200年以上たった今も、カモノハシは科学者たちを驚かせ続けている。メスは哺乳類なのに卵を産み、オスは後ろ足の蹴爪に毒を持つ。その毒は猛烈な痛みを引き起こすという(最近ではこの毒に、糖尿病治療に役立つかもしれないホルモンが含まれていることがわかった)。
これだけではない。カモノハシには胃がなく、食道が直接腸につながっている。人間は性染色体を2本しか持たないが、カモノハシにはなんと10本もある。おまけに、それでも足りないと言わんばかりに、2020年の研究では毛皮が発光することが明らかになった。紫外線を当てると、毛皮は鮮やかな青緑色に光ったという。 (参考記事:「カモノハシは紫外線で青緑に光る、目的は不明」)
だが、カモノハシの研究者の一番の関心事は、奇妙な生態よりも、個体数が減少しているという厳しい現状にある。カモノハシのエサ場であり、繁殖場であるオーストラリア東部の川が、気候変動、人間による開発、干ばつ、森林火災で甚大な被害を受けているのだ。そこで科学者たちは、カモノハシの保護支援を拡大するために、連邦政府と一部の州政府に対してカモノハシの危機評価を格上げするよう求めている。
水不足が追い打ち
カモノハシは、夜行性で人目に付くのを恐れるため、正確な個体数を把握するのが極めて難しい。ただ、個体数の減少を示す兆候はある。ニューサウスウェールズ大学の研究者やオーストラリア保護財団などによる最近のレポートでは、過去30年の間に22%以上の生息地でカモノハシがいなくなってしまったようだと報告された。
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