次々と見つかる新型コロナ変異株、原因と対策は?

新しい治療法による可能性も、大規模ゲノム解析の重要性が浮き彫りに

2020.12.26
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2020年10月18日、英国ロンドンのテムズ川沿いを散策する人々。(PHOTOGRAPH BY ANDREW TESTA, THE NEW YORK TIMES VIA REDUX)
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 12月初旬、英国ケント州で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者が急増し、科学者たちが原因の解明にのりだした。英国の科学者による新型コロナウイルスのゲノム(全遺伝情報)解析プロジェクト「COG-UK」のメンバーであるニック・ローマン氏らは、手がかりを求めて遺伝子の変異を調べた。おかげで、地域の中で感染が拡大する状況を大まかに追跡することができた。

 新型コロナウイルスでは遺伝子の変異、つまりゲノムの複製時に自然に生じるミスが、毎月1〜2個の安定したペースで生じていると、英バーミンガム大学の微生物ゲノミクス・バイオインフォマティクス教授でもあるローマン氏は説明する。しかしケント州の多数の感染者から、遺伝情報に関わる変異が合計23個もあるウイルスが採取された。

 これほど多くの変異が生じていたことは、「非常に衝撃的で異例の発見でした」とローマン氏は言う。

 この変異ウイルス(変異株)は「B.1.1.7」あるいは「501Y.V1」「VUI-202012/01」などと呼ばれている。今回の発見を受け、英国当局は先週、国民に注意を呼び掛けた。イングランド公衆衛生局(PHE)による追跡調査から、この変異ウイルスが増え始めたのは、ケント州をはじめとする英国南東部で感染者が急増した時期であったことが示された。

 検体のデータベースを利用した追跡により、B.1.1.7が初めて採取されたのは9月20日だったことがわかった。だが11月中旬にはロンドン以東の地域の感染者の20〜30%がこの変異ウイルスに感染し、3週間後には約60%まで上昇していた。

 また12月23日には、南アフリカで前の週に報告された別の変異ウイルスが、イングランドの2人の感染者から採取されたと英国の科学者らが発表した。

 これらの変異が生じた理由や、ウイルスの広がりに対して長期的にどんな影響があるのかは、まだわからない。だが、変異の起源については、回復者から提供された回復期血漿の投与といった実験的な治療を受けている慢性患者が関係しているのではないかとする仮説がある。長期的に感染が続く患者の体内ではウイルスが複製される機会が増え、変異が起こる可能性も高くなる。そして、継続的な治療は、ウイルスを進化させる圧力を高めているのかもしれない。

「慢性的に感染が続く人々の中には、ウイルスがかなり大きく変化する場合があります」と英ケンブリッジ大学のウイルス学者ラビンドラ・グプタ氏は話す。「例えば免疫が抑制された状態にある人たちです。その中には回復期血漿の投与を受けた人もいます。(抗ウイルス薬)レムデシビルを投与された人もいます」

 この仮説が事実だと証明された場合、治療のあり方に影響を与える可能性があると、英セント・アンドリューズ大学の感染症担当の臨床講師ムゲ・セビク氏は指摘する。パンデミック(世界的大流行)の初期には、患者の命を救う最善の治療法がわかっていなかったため、いずれかの組み合わせが効くかもしれないと期待して、患者に対して様々な治療を行っていた。しかし、抗ウイルス薬や抗体療法などの新しい治療法が変異ウイルスの出現に寄与したとすれば、「これらの選択肢は慎重に用いる必要があることを医療関係者に思い出させることになるでしょう」とセビク氏は言う。

次ページ:変異によって感染力が強くなったのか

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