タスマニアデビルの伝染性がん、再生産数が激減、風土病レベルに

8割を死なせた恐ろしい「死の病」、病原体の遺伝子で解析

2020.12.14
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捕獲されたタスマニアデビル。丸太の上でポーズをとっている。2008年にタスマニアのサムシング野生動物保護区で撮影。この保護区にいるタスマニアデビルの多くは、顔のがんに感染した親から隔離された。 (PHOTOGRAPH BY DAVE WALSH, ALAMY)
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 世界を混乱に陥れている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の最初の報告から、1年が過ぎた。その間、感染症について多くの議論が繰り広げられてきたが、オーストラリアのタスマニア島に暮らす体長80センチほどの肉食有袋類、タスマニアデビルは30年もの間、恐ろしいパンデミックに苦しめられている。

 噛まれると伝染する顔のがん「デビル顔面腫瘍性疾患(DFTD)」だ。他のがんと異なり、DFTDではがん細胞自体が伝染し、感染すると海綿状の口内炎を引き起こして口がただれ、やがて餓死する。致死率はほぼ100%だ。

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 DFTDにより、タスマニアデビルは14万頭から約2万頭にまで減った。タスマニアデビルは気性が荒く、繁殖期や主食である動物の死骸を争う際に、互いに噛みつくことが多い。おかげで、DFTDは簡単に広がる。ただでさえ絶滅が危ぶまれるなか、DFTDがタスマニアデビルを絶滅に追いやるのではないか、と多くの専門家が憂慮している。(参考記事:「動物大図鑑 タスマニアデビル」

 しかし、12月11日付けで学術誌「サイエンス」に発表された論文で、珍しくも明るい兆しが示された。DFTDが初めて確認された時に比べ、実効再生産数が大幅に減少し、タスマニアデビルがこの病気と共存できる可能性が示唆されたのだ。

「これは本当にすごいことかもしれません。野生の群れでの感染が、以前ほどは拡大していないという話です」と、研究のリーダーである米カリフォルニア大学バークレー校の進化生物学者オースティン・パットン氏は話す。「感染速度が遅くなっているのです」

ウイルス研究の手法をがんに応用

 このがんが初めて見つかったのは1996年だったが、1970年代か1980年代には発生していた可能性が高い。2015年、研究者はDFTDが1つのがんではなく、2種類のがんによって起きていることを突き止めた。そこで、厳密には以前から知られていたDFT1と、新たに見つかったDFT2とに分けられた。

 両方とも感染すると腫瘍ができ、やがて餓死する。実質的には腫瘍の区別はつかないものの、2つのがんは遺伝的に異なる。また、その起源も異なり、DFT1はメス由来で、DFT2は DFT1とは島の反対側のオスに由来するという。

「脊椎動物の伝染性腫瘍は珍しいにもかかわらず、DFT2の発見は、我々にとって大きな驚きでした」と、2015年に学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に論文を発表した著者の一人である豪タスマニア大学の免疫学者ブルース・ライオンズ氏は話す。自然界で確認されている伝染性のがんは、イヌやムール貝で見つかったものなど、ほんの一部だけだ。(参考記事:「イヌの伝染性の癌、起源は1万年前」

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