エルドリッジ一家が5年前に米マサチューセッツ州ケープコッドの小さな町にあるクランベリー畑を購入したとき、手入れが簡単ではないことはわかっていた。だが、覚悟はできていた。
彼らはクランベリーに絡みつく毒性の強いツタウルシを抜き、水をはった畑ではクランベリーを集める熊手を這い上がってくる蜘蛛を追い払った。寒い夜には、果実を凍らせないためのスプリンクラーをいつでも操作できるよう、畑の横にとめたトラックの中で寝た。
それでも毎年秋の収穫の喜びを思えば、苦労する価値は十分ある、とオーナーの妻のタバサ・エルドリッジさんは言う。水面に浮く赤褐色の葉、タンニンを含む冷たい水、彼女の夫と息子が水面をかき分け、ぷかぷかと浮かぶ果実を優しく集めていく。クランベリー農家の醍醐味だ。(参考記事:「ウィスコンシンのクランベリー畑」)
しかし、クランベリーの将来は不確かだ。米国北東部のニューイングランド地方では、ほかの地域と同様に、気候変動の影響でクランベリーの生育条件の多くが昔とは変わってきている。こうした変化はクランベリーの成長を困難にし、その将来に疑問符をつけている。
クランベリーを愛する農家と彼らを支援する科学者は、解決策を見つけようと努力しているし、状況はまだそれほど深刻ではない。しかし、実践的な解決策はまだ見つかっていない。
厳しい気候に適応した果実
北米原産のクランベリー(オオミノツルコケモモ)は高さ10〜20センチほどのつる性の常緑樹で、東海岸の各地で古くから先住民により食料をはじめ、染料や薬としても用いられてきた。その後、ヨーロッパ人が北米に進出すると、クランベリーを日常的に食べることが、ビタミンC 不足で起こる船乗りの壊血病の予防になることに気づいた。(参考記事:「先住民が重宝した、クランベリーの歴史」、「大航海時代の船乗りを震え上がらせた壊血病」)
今日では、マサチューセッツ州はウィスコンシン州に次いで全米第2位のクランベリー生産地となっており、生産量は年間10万トン以上にのぼる。
両州におけるクランベリーの主な生産地は、氷河が硬い岩盤を削ってできたくぼみだ。氷河が後退すると、このくぼみは湿気が多く、植物が豊かで、砂質で、酸性の湿地帯となった。湿地の端にはクランベリーが繁茂し、豊富な水と、厳しい冬と、穏やかな夏に適応していった。
クランベリーの種子を運ぶのは風や野生動物ではない。水だ。果実が熟してつるから水中に落ちると、浮いた実は湿地の縁まで漂っていき、そこに定着する。
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