視覚トリックでメスにアピール
オーストラリアに生息するオオニワシドリ(大庭師鳥)は、毎年春になると、メスの気を引くために「あずまや」付きの庭園を造り、管理する。小枝を組んでトンネルの形をしたあずまやの一方には、骨や貝殻、小石を並べて作られた見事な庭園が広がっている。
あずまやを訪れたメスは庭のないほうから中に入り、庭の側に立ったオスは、飾り物を一つひとつメスに披露する。メスは、いくつかのあずまやを訪れ、一番気に入った庭の主を交尾相手に選ぶ。(参考記事:「ニワシドリの求愛」)
このとき、ニワシドリのオスはあずまやに近いところには小さなものを置き、あずまやから離れれば離れるほど大きなものを置く。「あずまやの中の決められたメスの位置から見て初めて、その意味が理解できます」と、英エクセター大学の生物学者ローラ・ケリー氏は解説する。手前のものから遠くにあるものまで、すべての飾り物が同じ大きさに見えるのだ。その結果、庭は実際より小さく見えて、オスの体がより大きく見えているのかもしれない。これは「強化遠近法」と呼ばれる視覚効果だ。(参考記事:「オオニワシドリ、遠近法でメスに求愛」)
人間も、昔から芸術や建築の分野において、強化遠近法を取り入れてきた。世界各地のディズニーテーマパークにあるシンデレラ城や眠れる森の美女の城にも、この技法が使われている(※)。
「城の上へ行けば行くほど、レンガや窓が小さく作られています。城の一番下に立って見上げると、城は実際よりもはるかに高いと、脳が思い込んでしまうんです」と、ケリー氏は話す。
このトリックは、ニワシドリのメスにも効くようだ。質の高い錯視を作り出したオスほど、求愛に成功する率は高い。
トカゲを騙す
より多くの動物が、人間と同じように錯視を体験することがわかってきたが、問題は、その動物たちがどのように物を見ているのかをどうやって知るかだ。
イタリアのパドバ大学の心理学者であるクリスチャン・アグリロ氏は、この分野ではあまり研究対象とされていない爬虫類の錯視について調べることにした。まず最初に、フトアゴヒゲトカゲでデルブーフ錯視が起きているかどうかを実験した。
デルブーフ錯視とは、色付きの円がもう一つの円によって囲まれている二重の円が複数あるとき、色付きの円の大きさがすべて同じでも、外側の円の大きさが異なると、色付きの円が大きく見えたり小さく見えたりするという錯視だ。実生活で例を挙げるなら、同じ大きさの食べ物が異なる大きさの皿に載せられていると、小さな皿に載せられた食べ物は、実際よりも大きく見える。
トカゲで実験を行う際にも、アグリロ氏は食べ物を使った。
「トカゲを訓練する必要はありません。ただ、大きく見える方のエサを選択するかどうかを観察すればいいだけです。同じ大きさのエサを、小さな皿と大きな皿に載せて与えます。錯視に騙されれば、小さな皿の方を選ぶはずです」
※米ザ・ウォルト・ディズニー・カンパニーは米ナショナル ジオグラフィック・パートナーズの筆頭株主です。おすすめ関連書籍
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