米国の死者数が25万人に、追悼のため25万本の旗

「ここを見てください。まるで戦場です。これだけの死者が出ているのです」

2020.11.20
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全米に広がる追悼

 こうしたプロジェクトは、春から全米で行われている。5月には全米の人々がYouTubeのライブストリームでCOVID-19の犠牲者の名前を24時間連続で読み上げた。8月にはデトロイト市が、パンデミックが始まってからCOVID-19で死亡したデトロイト市民1500人のうち900人の写真を道沿いに並べて自動車の中から見られるようにした追悼道路を作った。

 カリフォルニア州では、13歳のマドレーヌ・ヒューゲートさんが、歴史の授業でCOVID-19に関する地域活動プロジェクトを考えていたときに、エイズ・メモリアル・キルトがヒントになると気がついた。35年の歴史をもつこの作品は、エイズによって死亡した10万人以上の人々を追悼するもので、現在、4万8000枚以上のパネルが縫い合わされている。

1992年10月10日にワシントンD.C.のナショナル・モールに展示されたエイズ・メモリアル・キルト。縫い合わされたパネルは2万1000枚にのぼった。現在、このキルトの重さは54トン、パネルの数は4万8000枚を超え、エイズの合併症で亡くなった10万人以上を追悼する作品になっている。(PHOTOGRAPH BY SHAYNA BRENNAN, AP)
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「自分なら何をするだろうと考えていたとき、ママがエイズキルトを作ったときの話をしてくれたのです。その頃、親しい人を亡くしたばかりだったママは、エイズキルトを作ることで、立ち直り、その人がもういないことを受け入れられたと言っていました。私も、そういうものを作りたいと思ったのです」とヒューゲートさんは言う。

 ヒューゲートさんが20cm四方のキルトを募集していることが口コミで広まったのは5月中旬のことだった。これまでに彼女は、COVID-19で亡くなった人たちを追悼する布を100枚以上受け取っている。なかでも彼女の心を揺さぶったのは、少女の写真がプリントされたシンプルな白い布だった。それは13歳の娘アンナを追悼したいという女性からのものだった。

新型コロナで亡くなった13歳のアンナ・カーターの母親が、ヒューゲートさんに送った布。手紙には「アンナはダンスと演技が大好きでした。 彼女は両親と2人の姉妹、2人の兄弟を残して亡くなりました。彼女がとても恋しいです」とあった。(Photograph by Katherine Fugate)
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「私は13歳で、知人の多くも13歳です。私と同じ年の子がコロナで亡くなったと聞いたとき、本当に悲しく思いました。この布は、誰もがコロナに感染する可能性があることを教えてくれます」と彼女は言う。「本当にきれいな布で、彼女が幸せな人生を送っていたことがよくわかりました」

 カリフォルニア・サイエンス・センターでは、再開後、少なくとも1年間はヒューゲートさんのキルトを展示する予定だ。彼女はいつかはCOVID-19で亡くなった人全員のキルトを集めて、世界中の人に見てもらいたいと考えている。

「亡くなった人のことを忘れるとき、私たちから人間らしさが少し失われてしまうような気がします」と彼女は言う。「キルトを見て、触れるとき、キルトを作った人が、亡くなった人のことをどれだけ思っていたかが伝わると思うのです」

旗は語る「あなたがいなくて寂しい」

 ワシントンD.C.にあるワシントン大聖堂のランディー・ホレリス主任司祭は、「人々はどうすることもできない悲しみと苦しみを抱えています」と言う。

 コロナ禍の今、伝統的な葬儀や礼拝のために家族が教会に集うことができないため、ワシントン大聖堂では、人々が死者を追悼する機会を別に用意している。毎週土曜日に、コロナで亡くなった人の名前を聖職者が読み上げるバーチャル礼拝を行っているのだ。毎週70~150人の名前が読み上げられ、平均1万5000人がこのストリームを視聴しているという。(参考記事:「100万人が埋葬されるNYの島、新型コロナでも」

 9月に米国の死者が20万人に達したとき、ワシントン大聖堂は12トンの鐘を200回鳴らした。鐘は6秒に1回ずつ、1000人の魂のために鳴らされた。

「鐘の音は反響して響き渡ります」とホレリス主任司祭は言う。「鐘が鳴ってから次に鳴るまでの一瞬の静寂の中で亡くなった1000人の魂を思うことは、とても力強い体験でした。この体験を通じて、人々は立ち止まり、死者に思いを馳せ、心に刻むことができました」

 ファステンバーグ氏は、「人間は死んだ後も人々に見られる必要があります。人々から見られることは、価値があること、大切に思われていることを意味するからです」と語る。

ファステンバーグ氏は展示を見に来た人々に、COVID-19で亡くなった大切な人の名前を旗に書くように勧めている。「人間は死んだ後も人々に見られる必要があります。人々から見られることは、価値があること、大切に思われていることを意味するからです」(PHOTOGRAPH BY GUGLIELMO MATTIOLI, NATIONAL GEOGRAPHIC)
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 ファステンバーグ氏の展示を訪れたのが2度目という地元住民のグウェン・ディラードさんは、「当面の危機が終わったとしても、この経験は私たちの心に長く残るでしょう」と言う。「私たちはコロナ禍によって、ある意味、永久に変わってしまうのでしょう」(参考記事:「トラウマ残る?『コロナベビー』への影響はかる研究始まる」

 パンデミックが拡大するにつれ、多かれ少なかれ悲劇に触れる人々の数も増えていく。ファステンバーグ氏が展示する旗は増え、その多くに訪問者が失った大切な人の名前が書き込まれていく。なかには、その人が亡くなった日や、短い伝記が書かれたものもある。そしてなにより、多くの旗が「あなたがいなくて寂しい」と語りかけている。

文=Sydney Combs/訳=三枝小夜子

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