14年間隠されていた「決闘する恐竜」化石、ついに表舞台へ

組み合うティラノサウルスとトリケラトプス、謎は解明されるか

2020.11.20
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 交渉は順調に進んだが、化石を博物館へ運ぶ前に、何年も続いていた激しい法廷闘争を片付ける必要があった。

 2013年の競売に至る前、モーリー夫妻は、牧場の元共同経営者だったジェリー・セバーソン氏とロバート・セバーソン氏の兄弟が、夫妻に対して訴訟を起こそうとしているという噂を耳にした。2005年に、モーリー夫妻は土地所有権のうちセバーソン兄弟が所有していた分を買い取ったのだが、その際にその土地に関する鉱業権の3分の2を、セバーソン兄弟が保持することで合意していた。セバーソン兄弟は、「決闘する恐竜」にも鉱業権が適用されるとし、その売却から得られる利益を受ける権利があると主張した。

有史以前のモンタナ州でにらみ合う恐竜たちの想像図。「決闘する恐竜」は、トリケラトプスと若いティラノサウルスが組み合ったまま死んで化石化した可能性がある。(ILLUSTRATION BY ANTHONY HUTCHINGS)
[画像のクリックで拡大表示]

 それまで100年以上もの間、モンタナ州では、化石は土地の鉱業権所有者ではなく、土地の所有者に属するとの前提の下、発掘が行われてきた。そこでモーリー夫妻は、訴訟を起こされる前にモンタナ州の裁判所へ行き、化石は鉱物ではないというお墨付きをもらおうとした。

 セバーソン兄弟はモンタナ州の住人ではなかったため、訴訟の場を連邦地方裁判所へ移したが、そこで2016年、モーリー夫妻の訴えを認める判決が下された。セバーソン兄弟は、これを不服として上訴した。2018年、連邦第9巡回区控訴裁判所はセバーソン兄弟の訴えを支持し、「決闘する恐竜」の所有権の大部分を兄弟に与えた。

 これに対し、多くの古生物学者は、化石の発掘にとって壊滅的な判決であると抗議した。化石が鉱物とみなされれば、過去100年分の化石の所有権をめぐる主張がひっくり返されてしまう。それだけではない。土地の鉱業権は細かく分かれている場合が多く、今後民間の土地で化石発掘の許可を取得することはほぼ不可能になってしまうかもしれない。そこで、2000人の会員から成る古脊椎動物学会と、博物館の連合、モンタナ州土地所有者の団体が共同で、モーリー夫妻を支持する嘆願書を提出した。

 フィップス氏とモーリー夫妻は、モンタナ州議会にも、化石の所有権は土地所有者にあるとする法案を可決するよう働きかけた。2019年に法案は全会一致で可決されたが、「決闘する恐竜」に関しては連邦裁判所で係争中だったため、法律は適用されなかった。

 2019年、控訴裁判所はこの件を再審理することに同意し、モンタナ州最高裁判所に対して、化石が鉱物かどうかの見解を求めた。2020年5月、州最高裁は、化石は鉱物とはみなされないと判決し、6月には控訴裁判所もこれに同意、化石の所有権はモーリー夫妻にあると認めた。

ティラノサウルス化石の半分は民間所有

 全ての民間の化石が、博物館などの公的機関に渡るわけではない。2020年10月には、「スタン」と名付けられたティラノサウルス・レックスの全身骨格が、裁判所命令により競売にかけられ、3180万ドル(約33億円)で落札された。落札者の正体は明かされていないが、民間の収集家と見られる。(参考記事:「33億円で落札のティラノ全身化石、今後の研究に懸念も」

 その驚きの値段に、古生物学者からは怒りの声が上がった。今後、科学者と土地所有者の関係が悪化し、世界的に化石の闇取引が増える可能性があるからだ。

「決闘する恐竜」に関しても、手放しで喜べないと専門家は言う。ウィスコンシン州、カーセッジ大学の古生物学者でティラノサウルスの専門家トーマス・カー氏は、替えの効かない化石を取引することは道徳に反すると考え、米国での化石の商業取引を禁止すべきだと訴えている。そして、今回のことでそのような取引が正当化されてしまうことを恐れる。

次ページ:今後の研究で解明したいことは

おすすめ関連書籍

ビジュアル 恐竜大図鑑 [年代別]古生物の全生態

先史時代の生物から恐竜、ヒトの祖先まで約300種の生態を網羅する、古生物大百科。700点を超えるビジュアルを収録。

定価:本体4,800円+税

おすすめ関連書籍

2020年10月号

アップデートされる恐竜/売られた少女たち/アマゾンのオウギワシ/米国の国立トレイル

研究技術の飛躍的な進展で、大きく塗り替えられようとしている恐竜像。特集「アップデートされる恐竜」で恐竜研究の最前線に迫ります。このほか、性的搾取を目的にした人身売買の闇を追った「売られた少女たち」など4本の特集を掲載。

定価:本体1,100円+税

  • このエントリーをはてなブックマークに追加