新型コロナで先住民の希少言語が消滅の危機、ブラジル

プルボラ語を話す長老はわずか2人に

2020.11.19
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ブラジルの先住民グアラニ・ムビャ族の子ども、マヌエラ・ヴィダールさん。これまでは公立学校で自分たちの言語と文化を学んできたが、今はパンデミックのため学校が閉鎖されている。(PHOTOGRAPH BY RAFAEL VILELA)

 ブラジルの先住民、プルボラ族の長老であるエリエゼル・プルボラさんが今年、新型コロナウイルス感染症のため92歳で亡くなった。プルボラさんのように、子どもの頃プルボラ語を話して育った人はもはやわずかだ。彼の死によって、消滅の危機に瀕しているプルボラ語は、またひとり語り手を失った。

 ブラジル先住民の言語は、ヨーロッパ人の到来以降、常に脅威にさらされてきた。かつてブラジルには1500の言語が存在していたが、今も使用されているのは181言語のみ。そのほとんどは、使用人口がそれぞれ1000人にも満たない。グアラニ・ムビャ族など、人口が多い先住民はかろうじて母語を維持しているが、少数派の言語は近いうちに完全に消えてしまう日が来ると恐れられている。プルボラ族は現在、220人しか生存していない。(参考記事:「2012年7月号 危機にある言語の未来」

 新型コロナウイルスの世界的流行(パンデミック)は、その状況をさらに悪化させている。ブラジルでは、推定3万9000人以上の先住民がウイルスに感染し、877人が死亡した。プルボラ族でも6人の感染者が出ている。

 新型コロナウイルスで死亡する確率が高いのは、エリエゼルさんのような高齢者、つまり言語の守り人たちだ。感染拡大を防ぐため、人々は社会から切り離され、文化の維持に欠かせない祭りなどがキャンセルされ、ただでさえ進まない言語継承の努力が一層進まなくなっている。

新型コロナウイルスは、ホテンシオ・カライさん(107歳)のような、言語の守り人である高齢者の命を危険にさらしている。(PHOTOGRAPH BY RAFAEL VILELA)
ヒシャルジ・ウェラ・ミリムさん(17歳)らのような若者も、グアラニの文化をしっかりと握りしめていると、コミュニティ・リーダーのソニア・アラ・ミリムさんは言う。「子どもは一日中携帯電話やコンピューター、テレビを見て過ごしていますが、何ものであっても私たちのなかからナーンデレコ(グアラニ流の生き方)を取り去ることはできません」(PHOTOGRAPH BY RAFAEL VILELA)

 言語と文化を守ることは、プルボラ族にとって長く苦しい闘いだった。100年以上前、政府機関であるインディオ保護局を後ろ盾につけた人々が、ゴムの樹液を採取するためにロンドニア州にある先住民の土地へやってきた。彼らは、先住民の男性と少年たちを働かせて樹液を集めさせ、女性や少女たちを非先住民への褒美として差し出させた。そして、人々にポルトガル語だけを話すよう強要した。

「私たちの文化に関係するものはすべて禁止されました」と、ホザナ・プルボラさんは語る。ホザナさんは、母親のエミリアさん亡き後、プルボラ族の長になった。エミリアさんとエリエゼルさんはいとこ同士で、2人とも孤児だった。子どもの頃、誰にも聞こえないところでは小声でプルボラ語を話していたという。「2人は、隠れて自分たちの言葉を維持していました」

 1949年、インディオ保護局はこの地域の先住民がひとり残らず「混血し、文明化した」ため、純粋な先住民はいなくなったと宣言した。こうして公式には、プルボラ族は消滅した。(参考記事:「アマゾン先住民の「大量虐殺」の声も、ブラジルのコロナ政策」

次ページ:プルボラ語を話す長老は残り2人に

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