絶滅危惧の深海サメ、コロナが危機に拍車か

需要の高い60種の約半分に絶滅のおそれ、保護活動家らが懸念

2020.11.18
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ガラパゴス諸島沖を泳ぐアカシュモクザメ。ヒレや肝油の需要が高い。国際自然保護連合は近絶滅種(critically endangered)に指定している。(PHOTOGRAPH BY MICHELE WESTMORELAND, NATURE PICTURE LIBRARY)
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 絶滅が危惧されているアカシュモクザメ(Sphyrna lewini)は、深さ300メートル以上の深海でも獲物を探す。サメには浮袋がないが、どうやって深海のすさまじい水圧のなかで浮力を保つのだろうか。

 その秘密はスクアレンとも呼ばれる肝臓の油にある。水より比重が軽く、多くのサメの生存に欠かせない浮力を提供するこの物質は、実は人間にとっても重要な役割を果たす。免疫反応を強めてワクチンの効果を高める「アジュバント」(抗原性補強剤)として使われているからだ。(参考記事:「新型インフルワクチンでサメがピンチ」

 世界の製薬企業は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンを開発しようと躍起になっている。現在、少なくとも、202のワクチン候補のうち5つで、野生のサメから採ったスクアレンが使われている(開発が進んでいる米ファイザー社と米モデルナ社のワクチンには使われていない)。(参考記事:「「9割に有効」のファイザー社ワクチン候補、発表を読み解く」

 オーストラリアのクイーンズランド大学がバイオ製薬会社のCSL社とその子会社である英セキーラス社と協力して開発を進めているワクチン候補には、スクアレンを含むアジュバント「MF59」が用いられている。原材料はさまざまな種類のサメだ。このワクチン候補はすでにヒトを対象とした臨床試験に入っており、それが成功すれば、初回分として5100万回分が生産されることになっている。

 世界全体では、密漁も合わせると毎年数千万頭のサメが捕獲、取引されている。大半は肉やヒレが目的だが、スクアレンが目的で捕獲されるサメも300万頭以上にのぼる。1トンのスクアレンを抽出するには、2500頭から3000頭のサメの肝臓が必要だ。(参考記事:「フカヒレ販売禁止に賛否、サメを守れるのか、米国」

 ただでさえ、サメの種の3分の1は絶滅の危機に瀕しており、保護活動家たちは、ワクチンに使われるスクアレンの需要が高まることを危惧している。

「サメなどの有限な自然資源では、まかないきれない需要です」と話すのは、米国カリフォルニア州を本拠地とする非営利保護団体「シャーク・アリーズ」の創設者兼事務局長のステファニー・ブレンドル氏だ。

 ただし、スクアレンのうち、ワクチンに使われるのはわずか1%に過ぎない。用途の大半は、日焼け止め、肌用クリーム、保湿剤などの化粧品だ。それでも、世界の人口が増えているため、ワクチンに使用される量は増える一方だ。しかも、医学の専門家によれば、新型コロナウイルス感染症のワクチンは1度接種すれば終わりではなく、複数回の接種が必要になる可能性もある。

「ワクチンの臨床試験の中止を求めているわけではありません。しかし、手に入りやすいからと言って代替策を検討しなければ、ワクチンにスクアレンを使い続けることになります」とブレンドル氏は言う。

 一部のバイオテクノロジー企業は、サメの減少を受けて、スクアレンを調達する別の方法を探りはじめている。たとえば、サトウキビ、オリーブ、アマランサスの種、米ぬかなどにはスクアレンが含まれている。こういった植物性の素材は、研究や臨床での試験が行われているものの、米食品医薬品局(FDA)などの規制機関はまだワクチンへの利用を認可していない。

次ページ:高値で取引されるサメの肝臓

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