「9割に有効」のファイザー社ワクチン候補、発表を読み解く

異例の速報では何がわかって何がわからないのか、専門家に聞いた

2020.11.12
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製薬会社の米ファイザー社と独ビオンテック社が開発したワクチン候補の第3相試験に使われる注射器を持つ医療従事者。10月27日、トルコのアンカラ大学イブンシーナ病院で撮影。両社は11月9日にニュースリリースを発表し、開発中のワクチンが新型コロナウイルス感染症を効果的に防いだと報告した。(PHOTOGRPAH BY DOGUKAN KESKINKILIC, ANADOLU AGENCY VIA GETTY IMAGES)
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 米ファイザー社と独ビオンテック社が9日、新型コロナウイルスワクチン候補の最終治験における初期の結果について、ウイルスへの感染を効果的に防いだと公表すると、世界中で驚きの声が上がった。全世界で感染者が急増し、ロックダウンや集中治療室(ICU)の対応能力の問題が再浮上している現在、これは歓迎すべきニュースだ。

 何より驚かされたのは、ワクチンの効果が業界の読みをはるかに上回っていた点だ。ニュースリリースによれば、専門家で構成される第三者委員会がデータを評価した結果、90%の有効性が示されたという。ワクチン接種を受けた治験参加者の10人中9人に、何らかの予防効果が見られたということだ。ちなみに、米食品医薬局(FDA)、世界保健機関(WHO)などの保健当局が設定している基準は50%の発症防止効果だ。

 ウイルスの遺伝物質を使うmRNAワクチンの有効性は動物実験でしか証明されていなかったため、その点でもこれは前代未聞だ。ただし、「中間報告」と称し、データがそろう前に一部の結果を公表する異例の措置が取られたことをはじめ、疑問の声も上がっている。

「科学者としては、臨床試験の実際のデータを見て、結果がどのように解釈されているかを確かめたいところです」と、米アイオワ大学の薬学部長アリアスガー・K・サレム氏は話す。

 ワクチンの効果について誤ったイメージが広まることを懸念する専門家もいる。効果がみられた治験参加者の人口統計学データ、ウイルスの型など、不可欠な情報がまだ公表されていない。治験が進み、より多くの結果が集まったとき、90%という数字が変化する可能性も十分ある。さらに、未発表の結果は査読を受けておらず、査読前の論文としてさえも公開されていない。

「データ不足がとても気になります」と、米メリーランド大学薬学部で医療薬学の准教授を務めるピーター・ドシ氏は述べる。「今私たちの手元にあるのは、ファイザーが自分たちで書いた見出しだけです」

 一方、90%という結果が大きく変わる可能性は低いと考え、今回の決定を称賛している人々もいる。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校の医学部長で、患者の安全について研究するロバート・ワハター氏は「おそらく変化するでしょう。87%くらいになるかもしれません。しかし、彼らが治験で得ている数字を考えると、50%になることはあり得ません」と話す。「間違いなく、90%前後に収まるはずです」(参考記事:「ワクチンの有効率、50%と80%でこれだけ違う」

ワクチン承認への道のり

 ファイザーとビオンテックのワクチン試験について説明しよう。最終段階である第3相試験が7月に始まり、4万3538人の治験参加者が2組に均等に分けられた。片方のグループには開発中のワクチン、もう片方のグループにはプラセボ(偽薬)を接種。臨床試験の実施計画書によれば、3週間の間隔で2度の接種を行っている。治験参加者は日常生活でリスクが同程度の行動を取ることを前提に、2度目の接種の7日後に、新型コロナウイルスに感染しているかどうかを評価した。

次ページ:なぜこの段階で発表したのか

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