ノルマン人の英征服を描く驚きの刺繍絵、バイユーのタペストリー

11世紀から伝わる“征服の象徴”、イングランド王を破った「征服王」の絵物語

2020.12.27
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バイユーのタペストリーに描かれた混乱を極める戦闘場面。ノルマン兵が敵方のイングランド兵に突撃している。(JEAN GOURBEIX, SIMON GUILLOT/RMN-GRAND PALAIS)

 1066年という年号は、何世代にもわたって英国の小学生の心にしっかりと刻み込まれ続けている。イングランド南東部のヘースティングズの戦いにおいて、現在のフランスにあったノルマンディー公国の君主ノルマンディー公ウィリアム(ギヨーム2世)がハロルド2世を打ち破り、この国の歴史に極めて重大な政治的・社会的変化をもたらした年だ。

 この「ノルマン征服(ノルマン・コンクエスト)」によって、フランス語を話す支配階級と大量の姓がイングランドに新たに持ち込まれ(ウォレン、ルイス、シンクレア、ボイル、チャーチルなど)、近代英語の種が植え付けられた。

1066年から1068年の間に鋳造された銀のペニー硬貨。王冠を戴いたウィリアム征服王が刻まれている。ロンドン、大英博物館。(BRIDGEMAN/ACI)

 しかし、この大変革の様子をもっとも生き生きと記録しているのは文書ではない。色とりどりの糸が縫い付けられた長さ約70メートルの亜麻布、「バイユーのタペストリー」だ。

 タペストリーと呼ばれているものの、この作品は実のところは布に毛糸で刺繍(ししゅう)を施して作られている。10色の糸が描き出すのは、ウィリアムとハロルドの運命を決する戦いの物語だ。

 さまざまな場面が登場するが、唯一、ウィリアムがイングランド王として戴冠する結末の場面だけが失われている。まるで横長のコミックのように、場面から場面へと進んでいく作りになっており、上下の帯はイソップの寓話や狩りの場面などで豊かに彩られている。

1077年に奉献された、ノルマンロマネスク様式とゴシック様式を併せ持つバイユー大聖堂。ウィリアムの戦勝を記念するタペストリーは、この大聖堂の壁を飾るために作られたとも言われている。(RICCARDO SPILA/FOTOTECA 9X12)

 ヘースティングズの戦いが終わってから数十年の間に作られたこの刺繍は、何世紀にもわたって、ノルマンディー地方の街バイユーにある大聖堂に保管されていた。そのため、バイユー司教オドンが制作を依頼したのではないかと考えられている。ウィリアムの異父兄弟であったオドンもまた、ヘースティングズの戦いに参加していた。

 オドンが作らせたこの大作は、大衆に向けたプロパガンダのために構想された可能性が高い。戦いに至るまでの政治的な出来事を描き、ノルマン征服の正当性を誇示するのがその目的だった。

ギャラリー:写真20点で一挙に解説、バイユーのタペストリー(写真クリックでギャラリーページへ)
王からの報せ
玉座に座るエドワード懺悔王がハロルドの訪問を受ける。エドワードはハロルドに、ノルマンディー公ウィリアムを訪ねて、ウィリアムのイングランド王位継承を確約してくるよう指示している。(JEAN GOURBEIX, SIMON GUILLOT/RMN-GRAND PALAIS)

次ページ:子どもがいなかったエドワード懺悔王

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