人類が宇宙に滞在し続けて20年目の日、人類の偉業ISS

国際宇宙ステーションの試練、成果、未来とは

2020.11.02
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 この間、ISSプログラムは何度も深刻な課題に直面してきた。1986年のチャレンジャー号、2003年のコロンビア号のスペースシャトル事故では14人の死者が出ただけでなく、ISS計画全体が混乱してステーションの建設が遅れた。2007年には太陽電池パネルの1つに76cmの亀裂が入ったため、クルーが危険な船外活動を行って修理しなければならなかった。他にも空気漏れ、冷却液ポンプの破損、複雑な科学機器の修理、補給ミッションの失敗などにクルーは対処してきた。

2007年、ISSに搭乗していたNASAの宇宙飛行士スコット・パラジンスキー氏とダグラス・ウィーロック氏(画面外)は、裂けた太陽電池パネルを修理するために7時間19分に及ぶ船外活動を行った。修復に使った固定具は彼らの自作だった。(PHOTOGRAPH BY NASA)
2007年、ISSに搭乗していたNASAの宇宙飛行士スコット・パラジンスキー氏とダグラス・ウィーロック氏(画面外)は、裂けた太陽電池パネルを修理するために7時間19分に及ぶ船外活動を行った。修復に使った固定具は彼らの自作だった。(PHOTOGRAPH BY NASA)

 ISSの稼働とクルーの生存を支えるためには、クルーと世界中のサポートチームが技術的に協力し合うことが不可欠だ。NASAのISS副プログラムマネジャーを務めるケネス・トッド氏は、これを「小さな国連」に例える。

「各国の宇宙飛行士たちは、軌道上に組み立てられた小さな缶の中で、危険と隣り合わせの生活をしています」と氏は言う。「複数の文化をもつ飛行士たちをまとめ上げる経験は非常に勉強になりました」

2020年4月に地球に帰還する前に、7つの窓があるISSの観測ドーム(キューポラ)でアルトサックスを演奏するNASAの宇宙飛行士ジェシカ・メイア氏。第61・62次長期滞在クルーのフライトエンジニア。(PHOTOGRAPH BY NASA)
2020年4月に地球に帰還する前に、7つの窓があるISSの観測ドーム(キューポラ)でアルトサックスを演奏するNASAの宇宙飛行士ジェシカ・メイア氏。第61・62次長期滞在クルーのフライトエンジニア。(PHOTOGRAPH BY NASA)

 ISSでは、その独特な環境のせいもあり、普通の日常生活でさえ困難がつきまとう。例えば騒音だ。ISSが約90分で地球を1周するたびに、日なたと日陰で大きく温度が変わる。すると金属部品が伸び縮みして、はじけるような音がする。宇宙飛行士の中には、就寝中に心の平穏を保つため、耳栓をする人もいるほどだ。

 宇宙環境では機体だけでなく人体にも負担がかかる。通常は重力によって足に集まっているはずの水分が頭の中にとどまるため、宇宙飛行士は不快感に悩まされたり、地上に戻ったあとで視力が低下したりする。ISS内の二酸化炭素濃度はしばしば地上の10倍以上にもなり、頭痛を引き起こすこともある。また、重力がある場所で進化してきた人間にとっては、排泄などの基本的な動作も厄介な作業になる。(参考記事:「宇宙飛行士の視覚障害の謎解明か、障害は不可避?」

ISSの改良型エクササイズ装置(aRED)で運動をする宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙飛行士、若田光一氏。第38次長期滞在クルーのフライトエンジニア。 (PHOTOGRAPH BY NASA)
ISSの改良型エクササイズ装置(aRED)で運動をする宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙飛行士、若田光一氏。第38次長期滞在クルーのフライトエンジニア。 (PHOTOGRAPH BY NASA)

 だがISSでの生活は、別の意味でも人を変える。ケリー氏は、上空から見るバハマの青い海や広大なサハラ砂漠、そして「巨大な眼球に張り付くコンタクトレンズのような」神秘的で薄い大気に心を奪われた。「私たちは特定の国に属しているのではなく、地球の市民なのだと実感しました」

宇宙での科学実験

 ISSのクルーは、軌道上に居住空間を維持するだけでなく、実験室も作り上げた。ISSで科学実験を行えるようにするのは簡単ではなかった。ごく基本的な実験装置でさえ、ISSの微小重力環境で動かすには、しばしば設計し直さなければならなかった。その甲斐あって、ISSではこれまでに約3000件の実験が行われている。

 ISSで行われた研究は、宇宙でのDNA塩基配列の解析から、遠方の宇宙現象で生成する高エネルギー粒子の研究まで多岐にわたる。しかし、最も実りの多い分野の1つは、クルー自身が被験者となった研究だ。

次ページ:宇宙と地上の「双子実験」

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