飛沫の「スーパー排出者」、コロナ感染拡大源の可能性

同じ声量で話しても桁違いに多い飛沫排出量、違いはどこに?

2020.10.30
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2020年10月6日、韓国のソウルで新型コロナウイルス感染拡大防止対策のため、防護服を着て道路に消毒剤を散布する作業員。韓国では、新規陽性者が6日連続で100人を下回ったが、秋夕の連休中に多くのクラスターが報告されたことから、陽性者数が今後増加するとみられている。(PHOTOGRAPH BY CHUNG SUN-JUN, GETTY IMAGES)
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 2003年、SARS(重症急性呼吸器症候群)の感染拡大に世界が注目していたころ、オーストラリアにあるクイーンズランド工科大学の物理学者リディア・モラウスカ氏は、大気を汚染する微粒子を吸引すると人体にどのような影響が出るかについて研究していた。そのモラウスカ氏のもとへ、世界保健機関(WHO)から、SARSを発症させるコロナウイルスの感染メカニズムを調べている香港の研究チームに参加してほしいとの要請があった。

 モラウスカ氏は、従来のアプローチとは対照的に、人がどのようにウイルスを吸引するのかではなく、どうやって排出するのかに着目した。

「これについて少しでも触れている研究論文は3報しか見つかりませんでした。大変重要な分野だというのに、これまで研究されてこなかったことに驚きました」

 それからほぼ20年が経過し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がまたたく間に世界へと拡大した今年、この問題に再び関心が集まっている。ウイルスを乗せて空気中を漂う微粒子が、どのように体内でできているのかを理解することは、新型コロナウイルスがなぜこれほど速く拡大したのか、またごく少数の感染者から多くの人が感染してしまうのはなぜなのかを理解するうえで重要だ。

 空気中を浮遊できるほど細かい微粒子はエアロゾルと呼ばれる。また、たったひとりで多くの人を感染させてしまう人をスーパースプレッダーと呼ぶ。モラウスカ氏が調査を始めて以来、このエアロゾルとスーパースプレッダーの関係について、かなり多くのことがわかってきた。例えば、体型や声の大きさ、呼吸の速さなどが、感染力に大きく関わっているという。

「感染源となった人は、くしゃみや咳をしているわけではなく、ただ呼吸して、話をしていただけです」。エアロゾルによる感染を専門とする米メリーランド大学のドナルド・ミルトン氏は言う。

「叫んだり歌を歌ったりもするでしょう。カラオケバーは、集団感染が起こりやすいです。カナダでは、エクササイズ用のスピンバイクスタジオでクラスターが発生しました。スタジオの中では、たくさんの人が集まって激しく呼吸をしていました」

 だが、エアロゾルをたくさん排出する人を調べるとなると、測定しにくい生物学的・肉体的要素が色々と絡んでくるので難しい。

エアロゾルが生まれる仕組み

 エアロゾルとは、空気中を数分~数時間漂える微粒子全般をさす。そのなかには乾燥したものもあれば、水分を含んでいるものもある。大きさは通常直径100マイクロメートル以下。人間の毛髪の太さと同程度だ。人間の気道で作られる飛沫の大きさは、5マイクロメートル未満のごく小さな「マイクロ飛沫」から、肉眼でも見えて空気中を漂わないものまでさまざまだ。

次ページ:マイクロ飛沫はこうして生まれる

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