科学者たちは、月の水をめぐる謎を解き明かそうと長年、研究を続けている。先日、学術誌「Nature Astronomy」に掲載された2つの研究は、いずれも月の表面に水が存在する可能性を示すものだ。
2つの研究のうちの1つは、太陽の光が当たる場所でも、水の分子が月の土の表面に付着している、あるいは土壌の内部に封じ込められていることを示す証拠が初めて見つかったというものだ。(参考記事:「月全体の表面直下に水がある、驚きの研究、NASA 」)
もう1つは、月面上に数多く存在する、太陽光が当たらない、つまり恒久的に影となった場所をモデル化した研究だ。月面の日が全く当たらない場所に氷が存在しうることを明らかにした。この研究によれば、月面上のこうした場所は合わせて約4万平方キロメートルにもなり、これまで考えられていたよりも約2割多いことになる。
月の表面に、水がどのような形で存在し、月の地表のどこにあるのか――。これらを調べることで、謎に満ちた月の水循環を解明できると研究者たちは考えている。地球では、雨が降って川に流れるというように水が循環している。月では、太陽風に含まれる水素が月の地表に含まれる酸素と反応したり、氷を含んだ隕石が月に衝突したりすることで水が存在すると考えられている。(参考記事:「月食中の月に隕石が衝突、観測はおそらく初」)
ただ、月に存在する水がどのように動いていくのか、また太陽の当たる場所から影に覆われた場所へと移動することはあるのかといったことは、まだ分かっていない。米メリーランド大学の惑星科学者ジェシカ・サンシャイン氏によると、新たな研究は「これまで考えられていたよりも、はるかに複雑なプロセス」が月の水循環にあることを示唆しているという。
月の水循環に関する研究は、人間がこの先、月を含めた太陽系内の天体を探索する上で不可欠なものだ(米航空宇宙局(NASA)は現在、アルテミス計画の中で、女性と男性による有人月面着陸を計画している)。というのも、水と氷が月面にあれば、これを地中から掘り出して燃料に変換することも可能となるからだ。実現すれば、火星などを目指す際に必要な装備を減らすことにもつながる。(参考記事:「アマゾン創業者も参入、月面計画に各国が殺到」)
また、月には複雑で多様な形で水が存在している、という今回の研究で得られた新たな知見は、「乾燥しきった大地」と考えられていた月に対する固定的な見方を変えていくことになりそうだ。
「ゆっくりとした革命と言っていいでしょう」。こう話すのは、米コロラド大学ボールダー校の惑星科学者で、月の影に覆われたゾーンに関する論文の主著者であるポール・ヘイン氏だ。「ゆっくりであっても、革命であることに違いありません」
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