「魔女狩り」観光で潤う街、悲劇を正しく伝えているか

楽しい魔女ツアーの背景に、何万人ものいわれなき犠牲者

2020.10.30
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米マサチューセッツ州セイラム市、魔女のコスチュームを身に付け、「ホーンテッド・ハプニングス・グランド・パレード」に参加する地元の人々。2018年。(PHOTOGRAPH BY JOSEPH PREZIOSO, AFP/GETTY IMAGES)
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 欧米が魔女パニックに陥ってから数世紀。今や魔女は、驚くべき力を持つ、美化された、ハロウィンの飾りとして生まれ変わった。映画やテレビには、すっかり愛されキャラとなった魔女が登場することもある。

 だが、魔女は現実に生きた人々だ。彼女たちの物語は、米マサチューセッツ州のセイラムや「スペインのセイラム」と呼ばれるスガラムルディなど、魔女ゆかりの地において観光資源となっている。

 しかし、その物語は正確に語られているとは限らない。世界では今も、魔術に関連する女性への迫害が横行しているという。そんな中、私たちは過去に魔女狩りで亡くなった人々をどう記憶すべきか、魔女狩りを記念することと商業化することのバランスをどう取るかについて、意識せざるを得なくなっている。

俗な魔女

 毎年ハロウィンの季節になると、とがった帽子にかぎ鼻をした女性の絵や仮装が米国中に現れる。なかでも、セイラムには格別に多い。

 1692年に19人が処刑された魔女裁判の地として知られるセイラム市には、パンデミック(新型コロナウイルスの世界的流行)の前、年間100万人近い観光客が訪れ、1億4000万ドル(約147億円)をもたらしていた。1カ月続くハロウィンのお祭りは、年間の観光客の30%が訪れる最大の書き入れ時だった。仮装した人々が、とんがり帽子のワッペンを付けた警察官の写真を撮り、魔女をあしらったショットグラスを土産に買っていくのだ。

 スペイン北部のスガラムルディでも年中似たような光景が見られる。この地では1600年代初頭のバスク魔女裁判において、7000人が魔術を使ったとの判決を受けた。観光客は、魔女がヤギに化けた悪魔と踊ったという近くの洞窟を訪ね、魔女博物館を見学して、魔女にまつわる土産物を購入する。

 魔女ツアーは楽しいかもしれないが、学者の中にはこうしたステレオタイプは有害だと危惧する人もいる。スペインの土産物屋で売られているような人形は、「魔女と呼ばれた人々が恐ろしい迫害の犠牲者ではなく、架空の存在だったかのような印象を与え続けます」。そう話すのは、『Caliban and the Witch(キャリバンと魔女)』の著者、シルビア・フェデリーチ氏だ。

「こうした人形を買う観光客たちが、魔女とされた女性たちの歴史を知っているとは思えません。彼女らは罪をでっちあげられ、拷問を受け、恐らくは生きたまま焼かれたのです」

ギャラリー:100年前のハロウィン 写真7点(写真クリックでギャラリーへ)
1905年、幽霊のコスチュームを身に付けた人がハロウィン用に飾り付けられたテーブルの前に立つ。当時は、写真にも写っているトウモロコシの茎や、野菜、木の枝や葉など、自然からヒントを得たコスチュームや飾りが多かった。(PHOTOGRAPH BY HISTORIC PHOTO ARCHIVE, GETTY IMAGES)

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