悲劇のスコットランド女王メアリー(いとこであるイングランド女王エリザベス1世に処刑されたことで知られる)が暮らしたホリールード宮殿。この宮殿の現在の風景には何かが欠けている。そう、かつては宮殿の前にずらりと並んでいたタクシーや観光バスが見当たらないのだ。(参考記事:「肖像画の下に女王メアリー、浮かび上がる歴史」)
ホリールード宮殿がある古都エディンバラは、スコットランドの首都でもある。同市議会は最近、旧市街で最も美しくにぎやかなビクトリアストリートとコックバーンストリートを歩行者専用道路にすることを決定した。目的は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策だ。ソーシャルディスタンスを確保するために、道路をレストランの屋外席にするのだ。現在エディンバラでは、2022年までに路面電車、自転車専用道路、歩行者専用道路を数キロ規模で整備するという野心的な「市街地トランスフォーメーション」計画が実行されている。 (参考記事:「スコットランドとっておきの旅ガイド、写真10点」)
COVID-19のパンデミックが発生して以降、世界のいくつかの都市で、車道を歩行者に開放する動きがおきている。米国のニューヨークでは、大通りにレストランの座席が並べられ、「ストリータリー(青空食堂)」と化している。
ユネスコ世界遺産を持つ都市(エディンバラでは、中世の旧市街と18世紀の新市街が指定されている)にとって、「スロートラフィック(速度の遅い移動手段)」を優先することは、人であふれかえるオーバーツーリズムによるダメージを緩和し、都市の歴史的な特性を維持する試みだ。もともと観光客は、街の歴史的な特性に引かれてやって来るのだ。 (参考記事:「オーバーツーリズムに苦しむバリ島のプラごみ対策」)
ただ、世界遺産を守りながら、地元住民と旅行者の双方に持続的に利益をもたらすことは可能なのだろうか? エディンバラで今起きていることは、何が機能し、何が機能しないか、歴史ある街が、今後どうなっていくかのテストケースと言ってよいだろう。
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