メキシコでは、パーティーやお祭り、祝祭日の飾りつけに「パピエ・マシェ」が欠かせない。この色とりどりの紙細工は、「死者の日」にはガイコツや空想上の動物として、子どもの誕生パーティーやクリスマスにはピニャータ(菓子やおもちゃを詰めたくす玉、棒でたたいて割る)として活躍する。
ほかの中南米の風習と同様、これら紙細工の習慣もヨーロッパの植民地化政策やカトリック信仰に根差している。だが、メキシコの紙細工には「毎日がお祭り」という奇抜さやブラック・ユーモアのセンスがあふれている。
ヨーロッパと先住民の風習
プエブラのつやつやとしたタラベラ焼きのタイルやチアパス州の刺しゅうブラウスとは違って、紙細工の多くは、つかの間の楽しみだ。メキシコシティー、オアハカ、グアナファト州を訪れる観光客は、ルピータという安い人形や、ポサダ(クリスマス)の行進で使うガイコツの仮面、あるいはイスカリオテのユダの張り子人形(詰められた花火を復活祭に爆発させる)などを買い求める。
「紙細工は、ストリートアートのようなものです。壁にスプレーで絵を描く時、それがそこに5年も残るとは思わないでしょう」と言うのは、リー・アン・テルマダッター氏。メキシコ在住で「Mexican Cartonería: Paper, Paste, and Fiesta(メキシコの紙細工:紙、のり、お祭り)」の著者だ。「創作することに意味があり、長く残る芸術ではありません」
これらの紙細工を生み出したのは、メキシコ人ではない。パピエ・マシェ(粗末な紙)という名前をつけたフランス人でもない。最古の作品は中国、漢の時代(およそ紀元前202年~西暦220年)に木材パルプと接着剤を用いて作られたもので、兵士のかぶとや鍋のふたなどもあった。紙(これも中国の発明)は薄くて柔らかいが、何枚も重ねたり接着剤(うるしや粉と水を混ぜたペースト)で強化すると、固く丈夫になる。
パピエ・マシェは、16世紀から18世紀にかけてヨーロッパで広まり、箱、トレイ、おもちゃ、家具までが作られた。「紙細工は、植民地時代にメキシコに伝わったようです」と、グアナファト州の街サンミゲル・デ・アジェンデのモヒガンガ(巨大な操り人形)作家、エルメス・アロヨ氏は言う。スペインでも植民地時代のメキシコでも、聖人やキリストの巨大な人形が宗教行事や祝祭の主役となった。アロヨ氏のような現代の作家は、5~6メートルもある豊かな胸の花嫁や気取った花婿、狂気に満ちたまなざしの悪魔、「死者の日」のガイコツなどを制作している。
モヒガンガの頭部と胴体は色鮮やかに塗られたパピエ・マシェで、布製の腕と衣装が取りつけられている。人形使いは、内部にある木製のフレームを肩に担ぎ、各地のパレードや抗議活動の場で、くるくる回したり踊り歩いたりする。モヒガンガは、サンミゲル・デ・アジェンデの結婚式には人気のゲストだ。「サンミゲルは、創造的で型破りなところがあり、その芸術コミュニティーは広く知られています。モヒガンガはこの町にはぴったりなのです」と話すアロヨ氏は、20組の新郎新婦の人形を貸し出している。
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