33億円で落札のティラノ全身化石、今後の研究に懸念も

東京・国立科学博物館にもレプリカがある「スタン」の全身骨格を匿名者が落札

2020.10.16
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ティラノサウルスの全身骨格化石、スタンが見つかった場所

 ブラックヒルズ研究所のプレスリリースによれば、2018年に裁判所はスタンを競売にかけ、その売り上げをラーソン氏への支払いに充てるよう命じている。また、スタンの売却後も研究所はスタンの樹脂型を作成して販売する権利を維持することとなった。

 また同研究所は、20年10月7日付で発表したプレスリリースで、「(スタンの)落札者が博物館ではないと知り、残念に思います。新しい所有者がいつの日かスタンを再び一般に公開し、たくさんの人の目に触れ、今後も研究が続けられることを願っています」と述べている。

 クリスティーズの科学自然史部長のジェームス・ヒスロップ氏は、2018年にスタンの競売手続きを開始した。そして2020年10月6日、競売にかけられたスタンを、電話で参加した匿名入札者が落札した。

 ナショナル ジオグラフィックのメール取材に対し、ヒスロップ氏は落札者の詳細についてのコメントを避けた。個人の収集家なのか、公共の研究機関なのかさえ、明かすことはなかった。

商品としての化石の価値

 米国では、国有地で発見された化石の骨は公共の財産とされ、許可を受けた研究者しか発掘できない。また、発掘された化石は公益信託となり、認可を受けた博物館など決まった場所に保管されることになっている。

 一方、民間の土地で発見された化石は売買が認められている。スタン以外にも、2018年にフランスの競売会社アギューツがアロサウルスの骨格を競売にかけて、科学界からの批判を浴びた。恐竜の化石が高値で取引されるようになれば、研究対象にするよりも「売却した方が儲かる」という考えが広がりかねない。 (参考記事:「実は凶器? ティラノサウルスの短すぎる腕に新説」

 世界の古生物学者2000人が加盟する古脊椎動物学会は、以前から化石の競売に反対し、民間が所有する化石の研究を行わないよう呼び掛けていた。研究者や一般の人々が、好きな時に化石にアクセスできる保証がなくならないようにするためだ。20年9月に、学会はクリスティーズに対し、スタンの入札者を公共の研究機関に限定するよう求める嘆願書を送った。これに対してクリスティーズは、「学会の立場を理解する」としながらも、「入札者に制限を設けることはできない」と返答した。

 英ブリストル大学の古生物学者で、同学会の会長エミリー・レイフィールド氏は、メールで次のように述べた。

「有名な化石の競売だからと多くの注目を集め、広く宣伝されたのは、高額入札者を引き付けるためです。おかげで化石の価格が吊り上げられ、化石は高級品というイメージを与えてしまいました。もし、公共の研究機関が一つの化石にこれだけの金を出すとすれば、そんな機関を世間の人々は信用するでしょうか。それほどの予算があるなら、人件費や実地プログラム、トレーニング、展示などに回せばいいのにと思われるでしょう」

【参考動画】恐竜101
かつて地球上を、1000種を超える恐竜が歩き回っていた。最大と最小の恐竜、食べ物、行動、絶滅に関する驚くべき事実などを紹介する。(解説は英語です)

次ページ:化石標本を競売にかける賛否

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