ワクチンの有効率、50%と80%でこれだけ違う

「集団免疫」はどうすれば確立できるのか(第3回)

2020.10.10
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新型コロナウイルスの電子顕微鏡画像。(Credit: NIAID)
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 8月14日、スウェーデン、ストックホルム大学の数学者トム・ブリットン氏らは、社会活動がもたらす感染リスクの不均一性が、集団免疫の閾値(集団が感染収束に向かうのに必要な免疫獲得者の割合)にどのような影響を与えるかを予測するモデルを『サイエンス』誌に発表した。

 彼らはまず、40歳未満の人々は高齢者に比べて人との交流が多く、ウイルスを拡散しやすいという妥当な仮定からスタートした。そうしてブリットン氏のチームがはじき出した集団免疫の閾値は43%。この値は、従来の計算式から導かれる60〜75%よりもはるかに低い。

「われわれは、このモデルの数値が現実に当てはまると主張しているわけではありません」

 ブリットン氏はそう警告し、このモデルは単に、病気に感染することで形成される免疫がどの程度の役割を果たすかを示しているに過ぎないと付け加えている。「この論文を根拠に、人々が気を緩めて、行動制限などやめて集団免疫が形成されるのを待てばいいと考えるようになることを、われわれは望んでいません」

 不均一性モデリングの限界の一つは、ウイルスが街なかでどのように広がっていくのかは、実際には誰にもわからないということだと、米コロンビア大学の疫学者ジェフリー・シャーマン氏は言う。そのため、モデルが示す低めの閾値が、実際の生活の中で何を意味するのかを正確に理解することは非常に難しい。(参考記事:「新型コロナ、クラスター対策と「8割減」の本当の意味」

「不均一性はまた、わたしたちが行う対策の影響を受けて、時間の経過とともに常に変化します。在宅勤務、学校の閉鎖、マスクの着用は、ウイルスを媒介する通常の交流をすべて阻害します。それによって、状況は完全に変わってしまうのです」

カタールで集団免疫が確立か

 また、最近発表された、2つの異なる地域におけるCOVID-19に関する研究は、従来の集団免疫の考え方が有効である可能性を示唆している。カタールには、集団免疫の閾値に達したと見られる労働者階級のコミュニティが、約10カ所存在する。

「カタールの人口の6割は出稼ぎ労働者であり、その大半が南アジア系の男性です」と、シャーマン氏は言う。「彼らは寮のような住宅に住み、カフェテリア形式の食堂で食事をとります。交流という点において、彼らは全員がこれ以上ないほど均質な状態にあります」

 7月、研究者らはこれらの人々に対し、過去に感染があったことを示す抗体があるかどうかの調査を開始した。その結果判明したのは、技能および肉体労働者(若年成人が多い)の60~70%が過去にCOVID-19に感染し、免疫を持っているということだった。今年の夏、当局が国境を再開しても、カタールの感染者数が増えることはなかった。

 また別の研究によると、ブラジルのマナウス市では、人口の44~66%がコロナウイルスに感染し、閾値に達したことで、夏には急激な感染増加が抑えられたという。

次ページ:ワクチン有効率はどれくらいあればよい?

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