ジュラヴェナトル・スタルキ(Juravenator starki)は、約1億5000万年前のジュラ紀、現在のドイツに当たる地域に生息していた恐竜だ。2020年10月5日付で学術誌「Current Biology」に発表された最新研究によれば、ジュラヴェナトル・スタルキの尾のうろこには感覚器官があり、それをうまく使って夜中に魚を捕っていたという。この感覚器官は、現代のワニ類に見られる「外皮感覚器」とよく似ているという。(参考記事:「ワニのアゴは人間の指先より敏感」)
ジュラヴェナトルは小さく、メンドリとほぼ同じ大きさの化石が発見されている。今のところ、化石は1体しか見つかっていない。ただ、この1体は全身の骨格が完璧に近い状態で、さらに一部だが軟組織まで残っていた。化石の尾の周りの皮膚を詳しく調べてみたところ、うろこに特徴的な模様があることが明らかになった。
「皮膚が化石として残っていることはめったにありません。化石骨だけを基に生きていたころの恐竜を再現しようとしても、体の表面部分は想像の域を出ません」。こう説明するのは、米テネシー大学ノックスビル校のステファニー・ドラムヘラー・ホートン氏だ。「軟組織が残っていれば、かなり具体的なことがわかります」。ドラムヘラー・ホートン氏は、今回の研究には参加していない。
ジュラヴェナトルの化石のうろこに見られる丸いコブは、現代のワニの外皮感覚器と似ている。ワニは外皮感覚器を使って近くにいる獲物の動きを察知したり、水の温度や酸性度を測ったりしている。
長い間、恐竜のうろこは体を保護する以外に大きな役割はないと考えられてきた。今回の論文を執筆したフィル・ベル氏は、「けれど、実際にはうろこは適応力の高い器官であり、たくさんの機能があったのです」と語る。同氏はオーストラリア、ニューイングランド大学の古生物学者だ。「実際に自分の目で見て、ジュラヴェナトルがその感覚器を使って周囲の環境とどう関わってきたのだろうかと想像すると、胸が熱くなります」(参考記事:「なぜ恐竜は頂点に君臨できたのか? 「試練」は2度あった 」)
恐竜の感覚器官
ベル氏と論文共著者のクリストフェ・ヘンドリク氏(アルゼンチンの研究機関ウニダド・エジェクトラ・リヨに所属)は、当初、尾の下側の丸い輪が細長く密集している部分を分析したとき、「化石化の過程でできたものだろう」と考えていた。
しかしよく見ると、「模様は規則的で、全て同じ大きさでした。それに、尾の下の細長い部分にしか見られませんでしたから、これが元々体に備わっていたものであることは間違いありません。とても奇妙な構造でした」とヘンドリク氏。顕微鏡と紫外線でさらに詳しく調べてみると、ワニの外皮感覚器とよく似た構造であることが判明した。
ワニの感覚器官は「とても特徴的です。中央がドームのように盛り上がり、その周囲を堀のような輪が囲んでいます。ジュラヴェナトルに見られる模様も、ほぼ同じ構造をしています」
英ロンドン自然史博物館の古生物学者ポール・バレット氏は、うろこが単なる飾りだった可能性はあるものの、現代のワニと比較することで、触覚器としての機能を持っていたとする今回の論文に「説得力があります」とコメントした。バレット氏も、この研究には参加していない。
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