染めた生地を天日干しにした後、たたんで店に運び込む労働者。インド、ラジャスタン州のサリー工場で撮影。インドではほとんどのサリーが機械織りになったが、260万人以上の手織り職人が今も働く。染色や織り方、サリーの着方は、地域ごとに多種多様だ。 (PHOTOGRAPH BY TUUL AND BRUNO MORANDI)

「サリー」は、サンスクリット語で「細長い布」を意味する言葉だ。しかし、はるか昔からこの布で身を包んできたインドの女性(と少数の男性)にとってはそれ以上の意味がある。この細長い布は誇りであり、インド29州の豊かな多様性を示す象徴的な存在なのだ。

「サリーは、身に着ける人の個性を隠したり引き出したりする力を持っています。その力で、象徴的にも現実的な意味でも、インド亜大陸の想像力をふくらませてきました」と、インドのデリーを拠点に活動する織物史家ルタ・カプール・チシュティ氏は話す。

 同氏は、書籍「Saris of India: Tradition and Beyond(インドのサリー:伝統とその先)」の著者で、インドの伝統手法を復活させ守ろうとしている織物企業Taanbaanの共同創業者でもある。

インド、ラジャスタン州ジョードプルで撮影。女性の深紅のドゥパッタ(ショール)が、「ブルーシティー」と呼ばれるこの街の壁とコントラストをなす。 (PHOTOGRAPH BY TUUL AND BRUNO MORANDI)

 サリーに関する最初の言及は、およそ3000年前に成立したと考えられているインド最古の聖典リグ・ヴェーダに見られる。また、布を巻いた衣服は、1世紀〜6世紀のインドの彫刻に登場する。チシュティ氏が言うところの「縫わない魔法の衣服」は、酷暑のインドの気候と、ヒンドゥー教やイスラム教社会の慣習に合っていた。サリーは、パキスタンやバングラデシュをはじめとする南アジア諸国の女性の伝統衣装でもある。

地方色豊かなサリー

 インドには素晴らしい手工芸文化があり、染色やプリント、織物の技術の宝庫だ。こうした技術が、地域ごとにおよそ30種もある多様なサリーに用いられている。

 ガンジス川に面した都市バラナシでは、機織り職人が昔ながらの木製の織機に身をかがめ、シルクのバラナシ・サリーを作っている。通常、鮮やかな赤地にメタリックな糸で装飾が施されており、花嫁が好んで身に着ける。

 南のケララ州のセットゥ・ムンドゥ(上下セパレート)は主に白地のサリー。19世紀の工業化によって色鮮やかなサリーが普及する以前のスタイルを維持している。

インド、ラジャスタン州の工場でサリーを乾かしているところ。(PHOTOGRAPH BY TUUL AND BRUNO MORANDI)

 西ベンガル州のバルチャリ・サリーには、この地域の寺院の壁に見られる装飾のようなデザインが施されている。「あらゆるサリーには、社会やそれに携わる人々についての物語があります」と、サリーのオンライン小売店Indian Silk House AgenciesのCEOを務めるダルシャン・ドゥドリア氏は話す。

 一方で、グローバル化と価格競争が進んだ結果、ここ数十年で機械織りのサリーが普及してきた。さらに伝統衣装の粗悪なコピー品が数多く輸入されるようになり、昔から機織りをしてきた職人たちは仕事を失いつつある。

日常着にも、ハレの日にも

 今でもサリーに身を包んで日常の仕事をする女性たちはいる。特に地方でよく見られる。「一部の地域では、おばさんやおばあちゃんなど、年配の女性はサリーを着ている割合が高いです。いつも着ているのかもしれません」と、南アジアの織物の専門家である米ジョージ・ワシントン大学、コーコラン美術デザイン学校の美術史教授クリスティン・マクナイト・セティ氏は話す。

 セティ氏によると、若い女性や都市に住む人は、普段は洋服やサルワール(チュニックとズボンのスーツ)を着て、結婚式などのパーティーの時に色鮮やかなサリーで着飾るという。サリーは、ヒンドゥー教の少女の通過儀礼の象徴でもあり、成人の儀式ではサリーや長さが半分のサリーを着用する。

ギャラリー:インドの鮮やかな民族衣装サリー、奥深いその世界 写真12点(写真クリックでギャラリーページへ)
インドのラジャスタン州で、木のブロックを使ってサリーの生地に捺染(布地に模様をプリントする染色法)をする職人。この地域は伝統的な捺染の技法の中心地で、プリントされた布はサリーにも家庭用品にも使われる。 (PHOTOGRAPH BY TUUL AND BRUNO MORANDI)

次ページ:サリーはたった一枚の布、でも象徴的な存在

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