9500万年以上前、現在のモロッコを流れていた大河に「モンスター」が生息していた。肉食恐竜のスピノサウルスだ。成長するとティラノサウルス・レックスより大きく、全長15メートル、体重7トンにもなる。ワニに似た長い口を持ち、鋭い円錐形の歯が密生していた。
最新の調査で、この恐竜の歯が大量に発見された。発掘場所は、モロッコ南東部にある川の堆積物でできた二つの地層。そのうちの1カ所からは、スピノサウルスの歯が152個も見つかったのに対し、他の陸生の恐竜の歯はわずか1個だった。
つまり今回の発見は、スピノサウルスが他の恐竜よりはるかに多くの歯を水中で失っていたことを示しており、この恐竜が「水中の捕食者」だったとする説を補強するものだ。
「スピノサウルスの歯がこれほど大量に見つかるということは、川岸ではなく主に水中で生活していた可能性が非常に高いということです」と、論文の著者である英ポーツマス大学の大学院生トーマス・ビーバー氏は同大学のプレスリリースで述べている。
学術誌「Cretaceous Research」に発表された今回の論文は、スピノサウルスは泳ぎが得意だったとする先行研究を裏付けるものだ。2010年発表の研究では、スピノサウルスやその仲間が、現代のワニやカバのように、日常の大部分を水中で過ごしていたという暫定的な証拠が見つかっていた。
そして、2014年と2020年に発表されたモロッコのスピノサウルスの骨格に関する研究では、水中を進むのに役立ったと考えられるパドル状の尾をはじめ、泳ぎの得意な動物たちと同じような特徴を持っていた証拠が発見された。(参考記事:「アップデートされる恐竜」)
「骨の研究では、スピノサウルスが実際に生態系とどのように関わっていたかを解明するのは、とても難しいのです」と、2014年と2020年の骨格に関する論文の共著者であり、米エール大学の博士課程に在籍する古生物学者マッテオ・ファッブリ氏は話す。なお、氏は今回の研究には関わっていない。「この論文は重要です。生態系そのものの研究ですから」
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