サウジアラビア北部の砂漠地帯で、いくつもの小さなくぼみが見つかった。その数は全部で376個。目立つものではなく、2017年にこの地域を調査していた科学者のチームもあやうく見過ごすところだった。
しかし詳しく調べていくと、このくぼみは古代の動物たちが残した足跡の化石と判明。なかには現生人類ホモ・サピエンスの足跡も含まれているらしいことがわかった。
これが本当にホモ・サピエンスの足跡と確認されれば、アラビア半島では最古の例になる。アラビア半島は、アフリカを出て世界へ拡散する人類が最初に通ったはずの場所だ。(参考記事:「人類の出アフリカは早かった?アラビア半島で足跡」)
9月18日付けで学術誌「Science Advances」に発表された論文によると、足跡は約11万5000年前のものであり、動物や人間が水と食べ物を求め、浅い湖の近くに集まった瞬間が記録されているという。
足跡は一目でわかるものではないが、その中で最大のものが、たまたま発掘チームの目にとまった。古代の湖岸につけられたその足跡は、どの現生種よりも大きいゾウの足跡のように見えた。
「1つの足跡が見えた途端、残りのすべてが見えてきました」とドイツ、マックス・プランク化学生態学研究所の動物考古学者で、この論文の著者であるマシュー・スチュワート氏は振り返る。
よく見ると、ラクダの細長い足跡や、大きなスイギュウや古代のウマと見られるかすかな足跡もあった。だがその日の作業を終えようと片付けに取りかかったとき、最大の発見があった。現生人類が残したと思われる、7個の足跡化石である。
現生人類がアフリカ以外の地に残した証拠としては、この湖岸の泥に残された足跡は最古のものではない。しかし、かつてこの地域が緑豊かだった頃の風景や、当時の人間と共存していた動物たちの姿を垣間見せてくれる。
「まるで、ある一瞬を切り取ったかのようです」と研究チームを率いたマックス・プランク研究所の人類進化研究者マイケル・ペトラグリア氏は言う。「足跡を見ていると、想像がどんどん広がっていきます。この人たちはどんな姿をしていたのだろう? 何をしていたのだろう? 湖が干上がった後、彼らはどうなったのだろう? 知りたいことが次々に出てきます」