ワラビーは豆粒ほどの大きさの未熟な状態で生まれ、母親の腹にある袋(育児のう)の中で育つため、他の多くの哺乳類に比べ、化学汚染物質などの外部からの脅威に影響を受けやすいという。(PHOTOGRAPH BY AUSCAPE, GETTY IMAGES)
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 除草剤のアトラジンは、日本を含め世界で広く使用されているが、動物の性的発達を阻害する可能性が様々な研究で指摘されている。最も使用量が多い米国とオーストラリアでは、小川や湖、飲料水から微量に検出されるケースも多い。

 8月5日付けで学術誌「Reproduction, Fertility and Development」に発表された研究では、アトラジンがダマヤブワラビー(Macropus eugenii)の生殖器の発達を阻害したという結果が得られた。ダマヤブワラビーは、オーストラリアに生息するカンガルー科の有袋類だ。

 メスのダマヤブワラビーに、450ppm(ppmは100万分の1)のアトラジンを含む水を、妊娠中から授乳中にかけて飲ませたところ、オスの赤ちゃんのペニスが通常より短く、小さくなった。

 この研究でまた一つ、アトラジンが「体内のホルモンバランスを撹乱している証拠」が増えたと、論文の著者である豪メルボルン大学の遺伝学者アンドリュー・パスク氏は主張する。しかも、このことはワラビーだけでなく、ヒトを含むすべての哺乳類に当てはまるという。

 アトラジンが有袋類に与える影響の調査は、今回が初めてだ。有袋類の子どもはとても未熟な状態で生まれ、生殖器は専ら出生後に発達する。そのため、化学物質による汚染などの外的要因の影響を受けやすいのだろうと、オーストラリア、ラ・トローブ大学の有袋類研究者ジェニファー・グレーブズ氏は指摘する。なお氏は今回の研究には参加していない。(参考記事:「ワラビー、年中ずっと妊娠していると判明、研究」

 アトラジンを生産する最大手のスイス、シンジェンタ社は、アトラジンは安全だと主張している。同社の広報担当者クリス・トゥティーノ氏はメールでの取材に対し、シンジェンタ社はアトラジンの影響について独自の研究を行っており、「環境中に存在しうる濃度のアトラジンが野生動物に悪影響を及ぼすと結論づけられるような、一貫性や説得力のある証拠はありません」と答えた。

 トゥティーノ氏はまた、パスク氏の研究で投与されたアトラジンの濃度はワラビーが環境中で接触する可能性のある濃度よりも高いと指摘し、「ありえないシナリオです」と批判する。

 それに対しパスク氏は、オーストラリアの河川ではアトラジン濃度が一時的に急上昇することがあるという証拠を挙げて反論する。オーストラリアの水域で記録されたアトラジンの最高濃度は、今回の研究で使用された濃度の約8分の1だが、ワラビーがアトラジンを散布された植物を食べることで、より多量のアトラジンにさらされる可能性があるという。

次ページ:アトラジンの内分泌撹乱作用

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