2020年3月23日、米フロリダ州の自宅居間に座る30歳のマリエッタ・ディアスさん。新型コロナウイルスに対する陽性反応が出たため、自宅隔離となった。ある時、呼吸が困難になり、急病診療所に行ったと言う。元々不安障害を抱えているため、息切れがそのためなのか、ウイルスのためなのか、わからなかった。隔離前に接触した人から中傷を受け、ぎりぎりまで精神が追い詰められたと言う。(PHOTOGRAPH BY ZAK BENNETT, AFP VIA GETTY IMAGES)
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 2020年、ニュージーランド出身の26歳、ジェニー・イーストウッドさんは、世の悲惨なニュースに取りつかれていた。新型コロナのパンデミック(世界的な大流行)、警察による暴力、抗議活動、陰謀論、政治……。あらゆる出来事を詳しくチェックせずにはいられない。祖国から遠く離れた米国にいたのではなおさらだ。レディットやインスタグラムでは10分毎に気が重くなるような投稿が上がってくる。

「パンデミックの中頃には、とても気分が沈んでいました」とイーストウッドさんは言う。「人間というのはなんてダメなんだと感じていましたし、いつも最新のニュースをチェックしたくて、何にも集中できませんでした」

 イーストウッドさんは、他の多くの人と同じように、深まる一方であるかのように見える世界の危機に取りつかれたのだ。

 私たちのこうした反応には進化的な起源がある。恐怖や危険についての話は不安をあおり、不安は脳を厳戒態勢にする。こうした特性はかつて私たちの祖先を捕食者や災害から守ったが、今日ではソーシャルメディアやウェブニュースを絶え間なくチェックし続け、危機に乗り遅れないようにするという行為につながっている。(参考記事:「新型コロナ、ことごとくパニックに陥る理由と対策」

 脈は速くなり、思考は次なる惨事に向けて常に張り詰める。私たちは危機に対して備えておきたがる傾向を持つため、最新の情報を確認せずにはいられなくなり、やがて世界は未だかつてないほど最悪な状態にあると信じるようになる。

 画面から目を離せなくなるような悲惨なことが起こっているのは事実だ。

 9月上旬の時点でパンデミックによる世界の死者は88万人を超え、社会的、経済的な格差への対応が迫られる中でも増え続けている。米カリフォルニア州やオーストラリアでは記録的な山火事が発生し、ハリケーンは例年にも増して猛烈なものとなり、アフリカではサバクトビバッタが大量に発生して穀物を食べつくしている。

 レバノンのベイルートでは巨大な化学爆発事故で少なくとも190人が死亡、150億ドル(約1兆6000万円)の損害が出ているとされる。警察による暴力や、非白人に対する歴史的抑圧に対する抗議活動は、世界中で何百万という人々を動かした。それだけでもたくさんだと言うのに、米国では国を分かつ大統領選挙の年だ。

 2020年は悪いことばかりというわけではない。米国ではたとえば、遠隔医療で多くの人が診察を受けられるようになっている。反人種差別を掲げる本が軒並みベストセラーに入っている。かつてないほど多くの人が手を洗うようになっている。何百、何千というペットがシェルターから引き取られ、国中の人がイヌを飼っているような状態だ。

次ページ:「バラ色の回顧」または「ノスタルジア・バイアス」

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