夏の不調、夏バテではなく「夏季うつ」かも

理解されづらい夏の抑うつ、背景に社会の同調圧力や認知度の低さも

2020.08.31
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夏の季節性感情障害(SAD)は、高温、多湿、さらには花粉の多さなど、複数の環境要因が引き金になりうる。(PHOTOGRAPH BY LI HUI)
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 米バージニア州南部に住む高校教師のクリスティーナ・フローレスさんは、去年の夏、2週間かけて米国中西部をドライブする計画を立てた。オハイオ州の湖岸に沿って車を走らせ、アイオワ州の平原に入り、その先をめざすのだ。

 フローレスさんには全米50州すべてを見て回るという長期的な目標があり、このドライブでその達成にまた1歩近づくはずだった。けれども出発の前日になって突然旅行をキャンセルした。気分の落ち込みが激しく、家を出られなかったのだ。宿の予約金は没収された。

 これほどひどいことはめったにないが、フローレスさんにとってははじめての経験ではない。彼女には年間を通して軽い抑うつ症状があり、夏になると悪化する。

 現在43歳の彼女は2010年の夏に季節性感情障害(Seasonal Affective Disorder、SAD、季節性気分障害とも)と診断されたが、高校生の頃には季節によって気分が変動することに薄々気づいていたという。振り返ってみると、夏の抑うつは子ども時代から始まっていた。

「両親は、私が退屈しているか、十分忙しくしていないせいだろうと考えていました」と彼女は言う。「自分の子ども時代の問題の多くが明らかにメンタルヘルスの問題であったことを、大人になってはじめて理解しました」

 夏型も冬型も同じSADであり、それぞれ夏季うつと冬季うつとも呼ばれるが、夏季うつはまれな疾患で、正しく診断されにくく、治療は困難だ。

 冬季うつでは、だるさ、睡眠時間の増加、食欲の増加と、それによる体重増加がみられる。季節性の日照不足によって引き起こされ、自然光に似た波長の光を1日30分以上浴びる光療法で症状をかなり抑えられる。(参考記事:「光は「いつ浴びるか」より「浴びた量」 冬季うつのメカニズム」

 一方、夏季うつの患者は動揺しやすく、不眠、食欲不振、体重の減少がみられる。冬季うつより自殺の可能性が高いのも特徴だ。夏季うつを引き起こすのは、高温、多湿、さらには花粉の多さなど、複数の環境要因だ。

 これらの変動する要因のせいで、夏季うつは治療が難しい。また、できるだけ屋内にいたいのに、夏は太陽の下で楽しむべきだという社会的な同調圧力があまりにも強く、そうさせてもらえない患者もいる。

次ページ:夏に気分が落ち込む人たちがいる

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