このように誤解してしまうのは、人は東西南北の4つの方位に単純化して覚える傾向があるためだ。それが頭の中の地図にも反映されて記憶されるようだ。つまり、北米に暮らす人にとっては、ヨーロッパは東に、南アメリカは南にあると考えると理解しやすいというわけだ。
ブラジルはカナダよりずっと小さい?
頭の中の地図が勘違いしていることはまだある。相対的な大きさについても、誤解が多い。この原因は一つに、見慣れた2次元の地図にある。そもそも、球体をしている3次元の地球を平面に表現しようとすれば、どうしても歪みが出るので、これは仕方がない。
顕著なのが、特定の投影法(地球のカーブした面を平らな地図上に表現する方法)を利用した地図――メルカトル図法で描かれた地図だろう。この地図は、20世紀の学校では決まって教室に貼られていたこともあり、見慣れた地図だ。(参考記事:「南極から月面まで、ナショジオ100年の地図」)
メルカトル図法の地図は、極地周辺にある大陸の形状と相対的な大きさがズレてしまう。例えば、グリーンランドが南アメリカ全体と同じくらいの大きさに見えるのはこの図法で描かれているためだ(実際には南アメリカ大陸の8分の1の大きさしかない)。
グリーンランドの大きさのほかにも、意外な矛盾点はいくつも存在する。北米アラスカは、メルカトル地図では巨大に見えるが、実際はリビアよりも少し小さい程度の広さしかない。また、ブラジルは地図上ではさほど大きく見えないが、現実には米国やカナダより少し小さいくらいだ。
世界を2次元でとらえることは「地球上のある場所から別の場所に、どう移動するのが効率的かという判断にも影響を与えます」と語るのは、米ペンシルベニア州立大学の地理学者アンソニー・ロビンソン氏だ。平面の地図で米国の首都ワシントンD.C.から中国の上海まで線を引けば、真っ直ぐ西へ向かって合衆国と太平洋を横切るルートが最短のように見える。(参考記事:「地図の物語:起伏表現はこうして進化した」)
しかし「北極を通るルートの方がはるかに距離は短いのです」(ロビンソン氏)。理由は、地球儀を見れば明らかだ。同氏も何度も飛行機でアジアを訪れているが、米国からアジア方面に向かう飛行機でパイロットが航空路を案内すると驚く人の姿を幾度も見たという。
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