宇宙の歴史の最終章は、うすら寂しいものになると予想されている。
はるかな未来、すべての星々が燃え尽きたあと、宇宙は寒くて暗い空間になり、興味深いことは起こらず、それどころか何も起こらなくなるだろうと、物理学者たちは考えている。宇宙が膨張し、物質の密度が下がると、利用可能なエネルギーはどんどん少なくなっていく。途方もなく長い歳月を経て、宇宙はいわゆる「熱的死」を迎える。
しかし、宇宙から光が消える前に、最後の花火が打ち上げられるかもしれない。天文学者たちは、白色矮星と呼ばれる小さな星々は、老いゆく宇宙に生き残る最後の天体の1つになると考えている。このほど英国の学術誌「王立天文学協会月報」に受理された論文によると、白色矮星はおそろしくゆっくりしたペースで核融合を続けて、最後に超新星のような爆発を起こすことが明らかになったという。
米カリフォルニア工科大学と米カーネギー天文台に所属する天体物理学者で、今回の研究には関与していないアビゲイル・ポーリン氏は、白色矮星が爆発するというアイデアには驚かされたと言う。科学者は基本的にこれらの燃え尽きた星を「永遠に冷えていくだけ」と考えているからだ。
新しいモデルによると、最初の白色矮星爆発が起こるのは早くとも10の1100乗年後であるという。「10の1100乗」とは「1」のあとに「0」が1100個続く数字である。論文著者で米イリノイ州立大学の天体物理学者であるマット・カプラン氏は、「この数字を書こうとするとページを『0』で埋め尽くすことになります」と言う(ちなみに、現時点での宇宙の年齢はわずか137億歳、「0」は10個)。
「私たちがふだん考えるどのような時間スケールをも超えています」とポーリン氏も言う。カプラン氏が正しいなら、この爆発は、宇宙が永遠の暗闇に包まれる前の最後の大きな天体物理学的事象になるだろう。
白色矮星の一生
恒星は、コアにある水素からヘリウムが生成する核融合反応によってエネルギーを生み出している。太陽と同じくらいかやや重い平均的な恒星が水素を使い果たすと、自分自身の重力に抗うだけのエネルギーがなくなり、コアが収縮して外層が急激に膨張する。コアが収縮すると圧力と温度が上昇し、より重い元素の核融合が始まる。恒星は最終的に外層を脱ぎ捨て、直径数千kmの超高密度天体だけが残る。これが白色矮星だ。
白色矮星は数兆〜数千兆年の歳月をかけて残りの熱を放射し、その冷えきった残骸は「黒色矮星」と呼ばれることがある。黒色矮星は低温で小さいため、非常に長い間安定した状態を保つことができるが、カプラン氏の計算から、量子トンネル効果という現象により核融合が起こる可能性があることがわかった。
黒色矮星のコアの中にある原子核はそれぞれが正の電荷をもっているため、磁石の同じ極どうしのように互いに反発し合っている。しかし量子論によれば、個々の原子核は粒子としてふるまうと同時に波動のようにもふるまっている。この波動性のおかげで、原子核はときどき、隣の原子核との間にある反発力の壁を、トンネルを抜けるように貫通することがある。
カナダ、トロント大学の天体物理学者マルテン・ファン・ケルクワイク氏は、「私たちは白色矮星を完全に不活発な天体だと考えています」と言う。「このように静かで死んだ恒星が核融合を続けることができるなら、すばらしいことです」。なお、ケルクワイク氏は今回の研究には関与していない。
カプラン氏によると、このような超低速の核融合反応は、何兆年もかけて重い元素である鉄を生成するという。この過程で、電子に似ているが正の電荷を持つ陽電子が放出される。陽電子は恒星のコアで電子に出会うと「対消滅」する。電子とその圧力が消えていくと、白色矮星は重力に打ち勝つことができなくなり、白色矮星はどんどん縮み、ついには従来型の超新星のような爆発を起こす。
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