1910年4月14日、米国のウィリアム・ハワード・タフト大統領は、ワシントンD.C.の野球場に詰めかけた数千人の野球ファンの中にいた。シーズン初戦のワシントン・ナショナルズ対フィラデルフィア・アスレチックス戦で、始球式を務めたのだ。
現職の大統領が開幕戦で始球式を行ったのは、この時が初めて。以降、大統領による始球式は伝統となり、ジミー・カーター氏とドナルド・トランプ氏を除くすべての大統領が行っている。
2020年7月23日、新型コロナウイルスの影響で約4カ月遅れになったが、米国に野球が帰ってきた。ワシントン・ナショナルズの今シーズン初戦となるニューヨーク・ヤンキース戦で始球式を務めたのは、米国立アレルギー感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長だった。世相を反映し、米国におけるコロナ対策の第一人者が、政治家やセレブが務めてきた始球式の歴史に名を連ねることになったのだ。(参考記事:「「ウイルスが中国の研究所で作られたという科学的根拠はない」米国コロナ対策の第一人者ファウチ氏独占インタビュー」)
始球式の歴史は、プロ野球の歴史と同じくらい古い。記録に残る最初の始球式は1892年。当時のオハイオ州知事で、のちに大統領になるウィリアム・マッキンリーが、マイナーリーグの開幕試合で始球式を行っている。(参考記事:「朝型/夜型が野球の成績に影響?」)
だが、始球式を本当の意味で野球の伝統に変えたのは、冒頭のタフト大統領だった。1910年のこの日、大統領はヘレン夫人、ジェームズ・シャーマン副大統領とともに球場に現れた。