怪物ミノタウロスが古代の人々を魅了したのはなぜ?

勢力が移り変わる古代の地中海で格好の「敵役」だった

2021.01.01
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
小鳥を手で握りつぶすミノタウロスの絵。野蛮さや残虐さへの嫌悪が表現されている。1885年、ジョージ・フレデリック・ワッツ作。ロンドン、テート・ギャラリー所蔵。(PHOTOGRAPH BY ALBUM)

 伝説によると、ギリシャのクレタ島にある迷宮の奥深くに、人の肉を食らう半人半牛の怪物ミノタウロスがいたという。

 ミノタウロスは、義理の父であるミノス王に幽閉され、生け贄として差し出されたアテナイ(現在のアテネ)の若者たちを餌食にしていた。しかし、最後にはアテナイの英雄テセウスの手によって倒される。

 ミノタウロスの物語は、陶器や詩、演劇、さらにはピカソの芸術作品にまで、数えきれないほどの影響を与えている。考古学者は今、その物語が当時の地中海における現実に深く根付いていたと考えている。

 ギリシャ神話に登場するミノタウロスは、クレタ島で生まれた古代ミノア文明(ミノス文明、クレタ文明ともいう)を象徴する存在だった。ミノア文明は紀元前3000年から前1100年頃にかけて、地中海地域に大きな影響を与えた。アテナイの英雄テセウスがミノタウロスを倒す物語は、クレタ島に代わってギリシャ本土が勢いを増していた時代と重なって見えるようだ。

ギャラリー:ギリシャ神話の怪物ミノタウロスと古代地中海世界 写真11点(写真クリックでギャラリーへ)
ミュロンの作品「ミノタウロス」(紀元前5世紀)の古代ローマ時代の複製。アテネ国立考古学博物館所蔵。(PHOTOGRAPH BY DEA/SCALA, FLORENCE)

ミノタウロスの物語

 ミノタウロスの物語は、長年の間に何度も繰り返し語られるうちに、いくつものバリエーションが生まれた。その全てに共通しているのは、雄牛が様々な形で重要な役割を果たしているという点だ。最もよく知られているバージョンを簡単に紹介しよう。神々の王であるゼウスが、フェニキアの王女エウロペに恋をした。ゼウスは白い雄牛に姿を変えてエウロペに近づき、彼女を背中に乗せてクレタ島へ連れて行った。2人の間に生まれたミノスは、成長してクレタ島の王となる。

 ミノスは、自分が正当な王であることを示す証しとして、雄牛を送ってほしいと海神ポセイドンに願った。そして、その牛を生け贄としてポセイドンへ捧げると誓った。これに同意したポセイドンは、立派な白い雄牛を波に乗せて送ったのだが、いざ生け贄を捧げるときになると、ミノスは雄牛の美しさに魅了され、生け贄にするのをやめてしまった。

 これに怒ったポセイドンは、ミノスの妻であるパシパエに呪いをかけたので、パシパエは雄牛に性的な魅力を感じるようになる。パシパエはアテナイの発明家ダイダロスに頼み込んで、中が空洞になっている実物大の牛の像を作らせ、その中に入って思いを遂げた。その結果生まれたのが、半人半牛の赤ん坊だった。パシパエはその子をアステリオスと名付けたが、後にミノタウロスと呼ばれるようになる。ミノス王は、複雑に入り組んだ迷宮をダイダロスに設計させ、その奥深くにミノタウロスを閉じ込めた。

参考ギャラリー:想像力が生みだした 世界の怪物たち14点(画像クリックでギャラリーへ)
英国にいくつもある「ジャックの物語」の一つに、2つの頭を持つウェールズの巨人が登場する。この巨人はジャックを自宅に一晩泊めるが、ジャックは巨人の計画を聞いてしまい、こん棒で殴り殺される危険があると知る…。(PHOTOGRAPH BY SCIENCE HISTORY IMAGES, ALAMY)

次ページ:文学と美術に描かれたミノタウロス

ここから先は「ナショナル ジオグラフィック日本版サイト」の
会員の方(登録は無料のみ、ご利用いただけます。

会員登録(無料)のメリット

  • 1ナショジオ日本版Webの
    無料会員向け記事が読める
  • 2美しい写真と記事を
    メールマガジンでお届け

おすすめ関連書籍

古代史マップ

世界を変えた帝国と文明の興亡

古代エジプト、共和制ローマ、漢などの世界を変えた強国から、カルタゴ、クレタ、オルメカなどの謎が残る文明まで、古代世界の勢力の変遷や時間の流れを視覚的に理解できる!

定価:本体1,400円+税

  • このエントリーをはてなブックマークに追加