イエローストーン国立公園で多くの人が見つめる中、後ろ足で立つアメリカクロクマ。アメリカクロクマはハイイログマよりもおとなしいが、生息数が多く残飯をあさることも多いため、人と遭遇する機会も多い。(PHOTOGRAPH BY JONATHAN BLAIR, NAT GEO IMAGE COLLECTION)

 クマには不思議な魅力がある。自然の中でクマと遭遇すれば、カメラで撮影したくなるだろう。しかし、クマが体重200キロを超える最上位捕食者であることを忘れてはいけない。人間は近づいてはならない存在なのだ。(参考記事:「人はなぜ危険を冒して動物と写真を撮るのか?」

 とはいえ、この記事で紹介する古い写真や、最近ではアメリカクロクマににおいを嗅がれながらじっと立っている女性を映した動画がSNSで話題になっていることを考えれば、クマと出合ったときの原則は浸透していないと言える。(参考記事:「動物大図鑑 アメリカクロクマ」

 夏は、米国の国立公園がもっともにぎわう季節だ。今年は新型コロナウイルスでロックダウンが発動されたこともあり、外に出られなかった人々が旅先に国立公園を選ぶケースも多い。マスクの着用、ソーシャルディスタンスだけでなく、国立公園では野生動物との距離が近くなることを覚えておきたい。野生動物とたまたま接触してしまうこともあるが、意図的に野生動物に手を出して招いてしまう不幸もある。実際、イエローストーン国立公園では、バイソンに幾度も近づいた72歳の女性が角で突かれる事故が起きている。しかも、この事故は2020年5月に公園が再開してから2度目のものだった。

 ところで先述のSNSで拡散した動画は、メキシコ北部のチピンケ自然公園で撮影されたものだという。不用意にクマに近づいた結果なのか、ハイキング中に偶然クマに出合ったのかまでは分からない。野生動物に遭遇しても安全にやり過ごす方法があり、また野生動物との不幸な事故は昔から起きているのに、クマを避けようとしない人がいるのはなぜなのだろうか。

繰り返されてきた過ち

 米国の国立公園局(NPS)は1916年に設立された。それから約50年は、ルールや取り締まりが厳しくなかったため、訪問者は公園内のクマに近づいて触れあうこともあった。

 米グレイシャー国立公園の野生生物学者であるジョン・ウォーラー氏はこう話す。「レンジャーは見て見ぬ振りをしていたのでしょう。1960年代まで、この国立公園の醍醐味は、道路にエサをもらいにくるアメリカクロクマを観察できることでした。もちろん、けがをする人も多かったのです」

 1930年代ごろには、NPSはすでに野生動物にエサをやることの危険性を認識していた。それなのに、なぜ危険な行動は容認されていたのだろうか。

ギャラリー:国立公園内でクマと人間が「交流」? 今なら目を疑う写真9点
イエローストーン国立公園でアメリカクロクマにエサをやる観光客。野生動物にエサを与えてはいけない。それは人間にとっても動物にとっても危険なことだ。(PHOTOGRAPH BY JONATHAN BLAIR, NAT GEO IMAGE COLLECTION)

次ページ:不幸な事故がなくならない理由

ここから先は「ナショナル ジオグラフィック日本版サイト」の会員の方(登録は無料のみ、ご利用いただけます。

会員登録(無料)のメリット

  • 1ナショジオ日本版Webの
    無料会員向け記事が読める
  • 2美しい写真と記事を
    メールマガジンでお届け

おすすめ関連書籍

動物の言葉

驚異のコミュニケーション・パワー

動物のコミュニケーション能力に関する最新の研究結果を、豊富な写真やイラストを使って分かりやすく解説。

定価:本体1,400円+税