人為的な気候変動に加えて晴天が続いたことにより、ここ数カ月の間、シベリアが猛暑に襲われている。この熱波は、6月に北極圏の気温を38℃まで上昇させたのみならず、大規模な山火事にも拍車をかけており、永久凍土層のあるツンドラまでが現在、炎に包まれている。
気温が低く、水分が多く、凍っているために、本来であれば燃えるはずのない地域で山火事が相次いでいるというこの事態に、生態学者や気候科学者は懸念を募らせている。彼らが恐れているのは、この火災が北極圏における急激な変化のさらなる兆候かもしれないこと、そして、局地的にも世界的にも連鎖的な影響を及ぼすことだ。(参考記事:「永久凍土って何ですか?」)
もし、ツンドラで火災が常態化すれば、生態系全体が劇的に作り変えられる。そこでは新たな種が優位となって、さらに火災が発生しやすい状況ができあがるかもしれない。火災そのものもまた、凍った有機物として何百年も蓄積されてきた炭素を放出させ、地球温暖化を加速させる可能性がある。
「この火災は、今のところはまだ気候変動に大きく寄与しているわけではありません」と、英ロンドン大学スクール・オブ・エコノミクスの環境地理学者トーマス・スミス氏は言う。「ただし、これまでとは違う何かが起こっている兆候であることは確かです」
より北に広がる炎
シベリアで過去、夏に大規模な火災が発生した例はある。しかし、2020年はどうやら、ロシア北極圏にとって火災の当たり年のようだ。
欧州中期予報センターの上級研究員マーク・パリントン氏によると、火災がシベリアに広がり始めたのは6月中旬だった。火事の熱出力の指標である「火炎放射強度」の1日あたりの水準は、2019年(同じく火災が極端に多かった年)に匹敵し、少なくとも2003年以降に北極圏で観測されてきたレベルをはるかに超えている。ロシアの林野庁は、シベリア東部のサハ共和国、チュクチ地域、マガダン地域では、広さ数千平方キロメートルもの土地が炎に包まれていると推測している。
火の勢いが極めて激しく、広範囲に及んでいることに加えて、科学者らが衝撃を受けているのは、北方への炎の広がりと、燃えている生態系の種類だ。
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