私たちはどうなる?米国で暮らすインド移民の不安

自分たちは「よそ者」、パンデミックで痛感

2020.07.06
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 伯母(母の姉)は、米国にいる。ペンシルベニア州立大学の学生である娘を訪ねて、インドから来ていたのだ。伯母は15年前、インドのベンガルールで、バイクから投げ出され、木に激突した。数カ所を骨折し、頭の骨も治療しなければならなかった。3カ月前、米国へ旅立つ直前に、はしごから落ち、再び頭をけがした。発作抑制剤を服用しており、想定していた短い旅行にちょうど必要なだけ荷物に詰めた。だが今、家に帰ることも、家族といることも、薬を補充することも許されない。

 2週間前、伯母の娘が、インドの医師に電話した。米国の医師に電話し、処方箋を米国の病院に送ってもらうよう頼んだのだ。数週間待ち、ようやく伯母は薬を手に入れた。「いつ夫に会えるのかは、わからない」と私に話した。「だけど、薬がある今は、少なくとも生き延びることはできる」

1999年、生後数週間の妹プージャを抱くライターのアイシュワリャ・クマール氏。子の誕生を知らせる伝統儀式と宗教的なお祝いに参加するために着飾っている。(PHOTOGRAPH COURTESY OF AISHWARYA KUMAR)
1999年、生後数週間の妹プージャを抱くライターのアイシュワリャ・クマール氏。子の誕生を知らせる伝統儀式と宗教的なお祝いに参加するために着飾っている。(PHOTOGRAPH COURTESY OF AISHWARYA KUMAR)
[画像のクリックで拡大表示]

 ベンガルールでマーケティングマネージャーをしている私の妹プージャは、インドがロックダウンされる前に、ベンガルールを出る最後のバスの1つに乗り、マドゥライにいる両親のもとにたどり着いた。いつまた会えるのかは、わからない。今のところ私たちは、メッセージアプリのWhatsAppで連絡を取り、バーチャルでハグをしている。ただし、妹のインターネット接続は、途切れがちだ。

「今朝の顔を見せて」と妹が言うので、私は写真を送った。目の下には、クマができていた。この頃、睡眠中によく目が覚める。悪夢を見るのだ。

 私は、寝室が2つあるきれいなアパートに住み、オンラインのヨガを受講している。週末には裏庭の手入れをし、麺を一から作る。

 私の家族が経験しているのは、珍しいことではない。祖父母が初めて孫に会うのが窓越しだったり、化学療法中の妻の手を握ることができない夫や、家族から隔離された最前線の労働者がいる。そして子供は、親の葬儀をきちんと行うこともできない。だが、この距離、私が感じるこの縮めることのできない距離、これは移民にとって悪夢だ。

 親友のビシャカはライターで、移民でもあり、米ワシントンD.C.で一人暮らしをしている。彼女は、ロックダウン期間中を通して、インドの家族にインタビューをした。会話は、哲学的な質問で終わることが多いという。この生活で何を優先すべきか? 死ぬ時、この世に何を残したいか? 私たちにとって何が重要か?

 彼女と私は、家族から遠く離れて暮らすという選択をした。ここで自分自身の人生を築くことを選んだ。多くの意味で、ここが「家」になった。だが、向こうも、家なのだ。我々は、2つの場所に住んでいる。

「友人が、この社会的距離の確保は、2020年中は続く可能性があると言った時、私は家を失った」と、ビシャカは私に話した。「アイシュ、これほど長く人に会えない、特に家族に会えないなんて、どうしたらいいの?」

 移民にとって、家の意味は、絶えず変化する。家族のことか? 場所なのか? 今や、どういうわけか、その間のスペースのことになったのか?

 大統領のツイート後、私はマドゥライの家族に電話をかけた。母が画面に現れた時、目に涙が浮かんだ。母はいつものように私を慰め、最高の結果を願いなさいと言った。父は、「明日いる所を心配しなければならないとしたら、充実した生活を送っていると本当に言えるのだろうか?」と聞いた。少し間を置いて続けた。「だが今は、インドに帰って来るよう頼むことすらできない」

 その後数秒間、静寂が空気を満たした。私たちの呼吸だけが聞こえた。私たち3人の。私は言った、いつものように。「バイバイ父さん、気をつけて」

参考ギャラリー:職を失い、貧しい故郷へ帰るインドの出稼ぎ労働者たち 写真16点(画像クリックでギャラリーへ)
参考ギャラリー:職を失い、貧しい故郷へ帰るインドの出稼ぎ労働者たち 写真16点(画像クリックでギャラリーへ)
新型コロナによるロックダウンで、1.4億人とされるインド都市部の日雇い労働者たちが次々に失業し、貧しい故郷へ向かっている。「都会の人たちは私たちを野良犬のように扱うのです」(写真=SAUMYA KHANDELWAL)

会員向け記事を春の登録キャンペーンで開放中です。
会員登録(無料で、最新記事などメールでお届けします。

会員登録(無料)のメリット

  • 1ナショジオ日本版Webの
    無料会員向け記事が読める
  • 2美しい写真と記事を
    メールマガジンでお届け

文=AISHWARYA KUMAR/訳=牧野建志

おすすめ関連書籍

ビジュアル パンデミック・マップ

伝染病の起源・拡大・根絶の歴史

ささいなきっかけで、ある日、爆発的に広がる。伝染病はどのように世界に広がり、いかに人類を蹂躙したのか。地図と図版とともにやさしく解き明かす。 〔全国学校図書館協議会選定図書〕

定価:2,860円(税込)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加