米海洋大気局(NOAA)の人工衛星が6月16日にとらえた光景。サハラ砂漠で発生した砂雲が西アフリカ沖へ達している。(COURTESY NOAA)
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 6月21日、巨大な砂の雲がカリブ海のプエルトリコを覆った。翌日、翌々日と大気の塵は濃くなり、プエルトリコ大学リオピエドラス校の大気化学者オルガ・マイヨール・ブラセロ氏が16年前から計測してきた大気のデータは、これまで見たこともない数値を示した。

「空も雲もなく、ただ灰色の層だけが見えました」とマイヨール・ブラセロ氏は振り返る。「間違いなく、見たことのない光景でした」

 プエルトリコを覆っていたのは、アフリカのサハラ砂漠から大西洋を渡って8000キロ以上移動してきた巨大な砂雲の先端だった。

 これほどのものは異例だが、砂雲自体は恒例だ。毎年、サハラ砂漠の乾いたくぼ地から砂が巻き上がり、約1億8000万トンものミネラル豊富な砂塵が空を舞う。微細なその砂は、降り注いだ土地の生態系と地球全体の気候に影響を及ぼす。

 2020年の砂雲は、人工衛星による観測が始まった1979年以降、最も分厚い雲に見える。それはつまり、慢性呼吸器疾患をもたらす微粒子が大量にもたらされることも意味する。

例年より人の生活圏に近い砂雲

 砂漠が広がる北アフリカは、地球上で最大規模の砂塵の発生源となっている。例年、春の終わりから秋の初めにかけて大量の砂塵が上空に舞い上がり、「サハラ大気層」を形成する。サハラ大気層は高度1500メートル以上に存在する乾いた熱い空気の層で、その厚さは3000メートルに達することもある。

 砂塵は東から西へ向かう貿易風に乗り、数日後、大西洋からカリブ海、南北米大陸に到達する。移動する砂雲の下には、微粒子を含んだ雨が降り注ぐ。

サハラ砂漠で発生した砂雲の影響で、不思議な色に変化した夕焼けを眺める人々。6月24日、ハバナで撮影。砂雲はカリブ海の空を覆った後、北上して米国に向かった。(PHOTOGRAPH BY RAMON ESPINOSA, AP PHOTO)
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 2020年の砂雲は、例年よりはるかに大きいだけでなく、はるかに低かった。「粒子状物質に関しては、私たちが計測しているパラメーターは見たことのない値に達しました」とマイヨール・ブラセロ氏は話す。砂雲が島全体を覆ったとき、プエルトリコの大気の質は「危険」な状態になった。窓を閉じても、どこからか砂ぼこりが入ってくる。そして、あらゆるものの表面に付着し、人々の肺に取り込まれた。

人体には確実に悪影響

 サハラ砂漠から舞い上がる砂塵は主に、かつて岩石だった鉱物の小さな破片から成る。通常、砂雲が風に乗り、数千キロ離れたスペイン領カナリア諸島を通過する時点で、降り注ぐ砂塵の大部分は、肉眼で見える大きさの半分に相当する直径20ミクロン弱だ。砂雲が太西洋を渡り、カリブ海に到達するころには、落下する粒子は直径10ミクロン弱まで小さくなる。このとき、砂雲に残された粒子の多くはさらに小さい。

 微粒子が存在する空間で呼吸することは、当然ながら肺に悪い。砂雲の通り道に暮らす人々は健康を損なうおそれがあり、事実、その証拠が明らかになっている。

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