2020年、ジョージ・フロイドさん拘束死に対する抗議運動が米国で広がりを見せるなか、ツイッターでは「#AmyCooperIsARacist(エイミー・クーパーは人種差別主義者)」というハッシュタグがトレンド入りしていた。
エイミーさんは、犬を紐でつなぐよう注意した黒人男性クリスチャン・クーパーさんに対し、警察を呼ぶぞと脅した白人女性だ。この事件について社会評論家は、黒人男性は白人女性による告発というリスクに常にさらされていることを思い知らされるとコメントしている。
ジャーナリストのアイダ・B・ウェルズが19世紀に行った調査にも、その厳しい現実が記録されている。ウェルズは当時の黒人に対するリンチを勇敢に取材した功績を讃えられ、2020年、ピュリツァー賞の死後特別賞を受賞した。
ウェルズはその調査取材のなかで、白人女性による嘘の訴えで多くの黒人男性がリンチを受けたと結論付けている。1892年5月21日、ウェルズは、自身が所有するメンフィス・フリー・スピーチ紙に社説を掲載した。「ここでは、ニグロの男が白人女性をレイプするなどという陳腐な嘘を信じる者は誰もいない。南部の男たちは注意しないと、彼らの女たちの道徳的評判に大きな傷がつく結果となるだろう」
14歳の黒人少年の死
白人女性の嘘で思い起こされるのは、シカゴ出身の黒人少年エメット・ティルのリンチ事件だ。1955年、ミシシッピ州マネーに住むおじの家へ遊びに来ていたティル(14歳)は、白人女性へ口笛を吹いたと訴えられ、拷問を受けたうえ、銃弾を大量に撃ち込まれて殺された。遺体は有刺鉄線でぐるぐる巻きにされ、重さ30キロの綿繰り機をくくり付けられて川へ沈められた。それから数十年後、ティルを訴えた女性は訴えの大半が嘘だったと告白した。
ティルの母親は、葬儀のあいだ棺の蓋を開けたままにして、ティルのつぶされた顔写真を雑誌に載せ、南部で起こっている恐ろしい出来事を世界に知らせてほしいと希望した。それからおよそ60年後の2018年、デューク大学教授のティモシー・B・タイソン氏は、この事件をテーマにした著書『The Blood of Emmet Till(エメット・ティルの血)』を出版し、ティルを訴えたキャロライン・ドナームから訴えは嘘だったと告白されたことを明かした。(PHOTOGRAPH BY BETTMANN, GETTY IMAGES)
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定価:本体3,900円+税