今年の米国の卒業式は、新型コロナの影響で例年とだいぶ様子が違っているようだ。学生たちは自宅から式に参加し、ズームの画面越しにバーチャル卒業証書を受け取っている。
しかし、そのような状況下でも変わらぬ伝統が1つだけある。四角い卒業帽だ。左官職人がモルタル(しっくい)を塗る際に使用する、四角いトレーに似ていることから、モルタルボードハットとも呼ばれる。
今では卒業式というと、房の付いたあの黒い角帽が思い浮かぶが、昔からずっと使われてきたわけではない。それどころか、一時はずんぐりしたコック帽のようなものが主流になりかけたこともあるのだ。
丸帽か、角帽か
ヨーロッパの学者たちは、11世紀に初期の大学が登場して以来、帽子を身に着けてきた。
当時、学問に従事するのは、キリスト教聖職者のうち低位にある人々が多かった。彼らは当初、剃髪した修道士たちが着用する、「ピレウス帽」と呼ばれる丸いフチなしの帽子をかぶっていた。14世紀になると、ピレウス帽が高くなって円筒形に近づき、現代のコック帽を縮めたような形になった。この形の帽子は「ピレウス・ロタンダス」と呼ばれ、主に法律、医学、科学を学ぶ学生たちが着用した。
16世紀半ばには、新しい帽子のスタイルが流行し始めた。柔らかな素材でできた正方形の帽子、「ピレウス・クアドラタス」だ。丸い帽子に比べて布地が少なくて済むこの帽子は、すぐに聖職者たちの間で広まった。ほどなくしてこの丸型と角型の2つのスタイルは、多様になる地位を象徴するものとなっていった。17世紀の英オックスフォード大学では、卒業していない学生は古くからある丸型しか選択の余地がなかった一方、より高位になるとピレウス・クアドラタスをかぶることができた。1675年になって、貴族階級の学部生が角型をかぶることを許可された。
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