ジャガーの違法取引が増加している。最新の研究によれば、中南米への中国からの投資増加が関連しているようだ。ジャガーは国際自然保護連合(IUCN)により近危急種(near threatened)に指定され、個体数は約17万3000頭と推定されている。牧場主がウシを襲うジャガーを射殺することも個体数が減る一因だが、大きな要因は森林破壊だ。以前と比べて、ジャガーの生息に適した土地は50%も失われているのだ。(参考記事:「中南米に残るジャガー信仰、人をのみ込む秘薬」)
近年、それに加えて、ジャガーの体の部位の国際的な違法取引が増え、個体数の減少に拍車をかけていると見られている。2020年6月2日付の学術誌「Conservation Biology」に発表された論文によれば、中南米では2012~18年前半、800頭以上のジャガーが命を奪われ、歯や毛皮、頭蓋骨が中国に密輸されたとしている。いずれも、法執行機関が押収した件数とメディアで報じられた件数によるもので、実際に奪われたジャガーの命はもっと多い可能性がある。
論文の主執筆者で、英国オックスフォード・ブルックス大学の博士課程に所属するタイース・モーキャティー氏は「違法取引の存在は知っていましたが、増加していることは知りませんでした」と話す。「本当に憂慮すべきことです」
モーキャティー氏らは比較的新しい動きである違法取引の背景を理解するため、ジャガー、ピューマ、オセロットの中国への密輸に関する報告を収集、分析した。すでに、自然保護団体が密輸は、中南米に古くから定着している中国人コミュニティーではなく、道路敷設やダム建設の巨大プロジェクトに携わってやって来た中国人労働者と関係している、と訴えていた。論文でも、この仮説を裏付けるように、中国から中南米への投資が、この10年間で10倍になったことが指摘されている。
論文の執筆者で、野生生物取引を研究する人類学者のビンセント・ニジュマン氏は「中国との結び付きが強く、統治力が弱く、汚職がはびこる国。野生生物の違法取引が増加する条件と言えます」と語る。研究チームが調べた結果、この条件を満たすのがブラジル、ボリビア、ペルーだった。
野生ネコ科動物の保護団体「パンセラ」で南米地域ジャガープログラムディレクターを務める生物学者のエステバン・パヤン氏は、研究チームはこれらの相関関係を見事に導き出したと評価する。「手に入るものは何でも把握しておく必要があります。ジャガー保護に関する方針や管理手法を決定する際の根拠になるためです」
ジャガーはトラの代用品なのか?
2010年ごろ、自然保護団体はジャガーの密猟の増加に着目し、希少になっていくトラの代用として、ジャガーの体の部位が中国でもてはやされているのではないかと考えた。(参考記事:「【動画】潜入!トラ闇取引の現場、解体して販売」)
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