小さな記念品が深く胸を刺す、ある児童養護院の物語

200年の歴史を保存するファウンドリング博物館の展示品から、英国ロンドン

2020.08.11
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ロンドンのファウンドリング博物館には、貧困や婚外子への偏見から子どもを手放す親たちが残していった「トークン」が保管されている。(COURTESY THE FOUNDLING MUSEUM)

 英国ロンドン、ブルームズベリー地区にあるファウンドリング博物館(ファウンドリングは捨て子の意)の収蔵品には、一見したところ、まるで一貫性がない。

 たとえば、「Meriah Duchesne(メリア・デュシェーヌ)、1759年8月8日生まれ」と記された小さな金属製のチャーム。それぞれに穴や刻み目などの目印が付けられた同時代の硬貨の数々。ヘアピン。小さな南京錠。酒瓶に鎖で下げられていたと思われる「ALE(エール)」の文字が記されたラベル。ハシバミの実。ハート形の赤い布に、紙製の腕を付けて人のような形に仕上げられた品には、思わずどきりとさせられる。ハートの形は、ここの収蔵品に多く見られるモチーフだ。

 こうした品々のことを、博物館では総じて「トークン(記念の品の意)」と呼んでいる。貧困、あるいは婚外子への偏見から、当時「遺棄・放棄された幼児の教育と扶養のための養護院」と呼ばれていた施設に、仕方なく置き去りにする自らの子どもに残したものだ。大半はごく粗末な品物で、親が戻ってきた場合の確認手段として使われていたこれらのトークンは、今では英国の首都を訪れる観光客にはほとんど知られていない博物館の、切ないコレクションとなっている。

1926年、正式には「遺棄・放棄された幼児の教育と扶養のための養護院」と呼ばれていた、ファウンドリング養護院の敷地内を歩く同院の少年たち。(COURTESY THE FOUNDLING MUSEUM)
ふたつに割られた硬貨のトークン。(COURTESY THE FOUNDLING MUSEUM)
ハート形の赤い布に2本の「腕」が付けられた手作りのトークン。裏側には紙がピンで留められており、メッセージを書こうとしたのかもしれない。(COURTESY THE FOUNDLING MUSEUM)

 ミュージカル『アニー』に登場する孤児の少女が持っている「銀のロケットの半分」と同じく、これらの品々は希望、遺産、記憶の象徴だ。数百年の時を越えて、いまだに紛争、貧困、移民政策などによって家族と引き離された子どもたちの問題と向き合う現代人の心に強く語りかけてくる。

親子を結びつける唯一の絆

 1739年に慈善家のトマス・コーラムによって設立されたこの養護院は、1741年、「先着順」で乳幼児の受け入れを開始した。1年が過ぎるころには、早くも入りきれないほどの子どもたちが集まり、その後は親が袋の中からボールを選ぶ抽選方式が採用されるようになった。白いボールは健康診断で問題がなければその子を受け入れる、黒いボールは受け入れ不可、赤いボールはほかの子が健康診断で問題が見つかった場合にのみ受け入れることを意味していた。

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