米国カリフォルニア州に自生するジャイアントセコイアの木は3000年以上も生きることがある。幹の直径は自動車2台分に及び、天に向かって100メートルほども伸びる。しかし数年前、記録的な干ばつの中で、科学者たちは奇妙なことに気づいた。セコイア国立公園とキングス・キャニオン国立公園の巨木のうち数本が、上から下に向かって枯れていたのだ。
キクイムシの仲間の仕業だった。
キクイムシは北米全域で数百万本のマツを枯らしてきたが、幹や樹皮に虫除け効果のあるタンニンが含まれるセコイアの巨木は影響を受けないと考えられていた。ところが、2019年までに少なくとも38本のセコイアが、キクイムシに食い荒らされて枯れてしまった。この本数自体は多くはないものの、専門家は、気候変動による干ばつと山火事の増加が重なったことで、堂々たるセコイアの巨木でさえ衰弱し、キクイムシの侵入を受けやすくなっているのではないかと心配している。(参考記事:「気候変動 瀬戸際の地球 消える北米の森」)
実は今、世界の森の木々が枯死するペースは年々速くなっており、特に大きい木、古い木ほどその傾向が著しい。5月29日付けで科学誌「サイエンス」に発表された論文によれば、そのせいで森林がより若くなり、生物多様性が損なわれ、重要な植物や動物の生息地が失われ、化石燃料の消費によって発生する過剰な二酸化炭素を貯蔵する能力も低下しているという。
「ほとんどの森がこのような状況です」と、論文の筆頭著者である米国エネルギー省パシフィックノースウェスト国立研究所の地球科学者ネイト・マクダウェル氏は話す。
適応できないほどの変化
世界の樹木がどのぐらい失われたかを詳しく調べるため、世界各地の20人ほどの科学者が160編以上の過去の論文を検証し、その結果を衛星画像と照らし合わせた。分析の結果、1900年から2015年までの間に世界の原生林の3分の1以上が失われたことが明らかになった。
詳細な歴史的データが残っているカナダ、米国西部、ヨーロッパなどでは、樹木の枯死率は過去40年で2倍に跳ね上がっていて、古木が死ぬ割合が高かった。
直接的な原因は1つではない。数十年にわたる伐採や開拓は原因の1つだ。だが、樹木が枯死するそのほかの原因を、気温の上昇と化石燃料の燃焼による二酸化炭素濃度の増加が大きく後押ししている。イスラエルのユーカリやイトスギのプランテーションからモンゴルのシラカバやカラマツの林まで、世界中の森林が、長期間の過酷な干ばつ、深刻な病虫害、壊滅的な規模の山火事に見舞われている。ある研究者は、「森林はますます減って、今の森が適応できず、すっかり様変わりするところもあるでしょう」と言う。
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