食料難のハチは葉っぱを傷付けて花を咲かせる、驚きの戦略

「なぜ誰も気付かなかったのか」マルハナバチのスゴ技、最新研究

2020.05.25
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【動画】植物の葉に傷を付けるマルハナバチ(このハチは花粉を与えられていない)

 ハチは、理由もなくブンブンと私たちの庭を飛び回っているわけではない。蜜や花粉がたっぷりある花を精査し、訪れた花を仲間に知らせるために匂いの跡を付けていく。

 それだけではない。5月21日付の学術誌「Science」に掲載された論文によると、マルハナバチはまだ花が咲いていない植物の葉に小さな切り目を入れることで、開花を早めていることがわかった。ハチ研究者たちをあっと驚かせた事実だ。

「すごい!というのが私の最初の反応でした」と、今回の研究に関わっていない米カリフォルニア大学デービス校のハチ生物学者ニール・ウィリアムス氏は語る。「その後、なぜ今まで誰も気付かなかったのだろうと思いました」

ハチが葉を傷付けている

 きっかけは、スイス連邦工科大学チューリッヒ校の学生フォテイニ・パシャリドゥ氏の発見だった。セイヨウオオマルハナバチが、温室内の植物の葉に切り目を入れているのを見つけたのだ。ハチは傷付けた葉を巣に持ち帰るのでもなければ、のみ込んでいるのでもないようだった。

 ハチは花を咲かせようとしているのではないかと、この報告を聞いた同大学の化学生態学者でパシャリドゥ氏の指導教官であるコンスエロ・デ・モラエス氏は考えた。そうして一連の実験を行った結果、食料となる花粉不足に直面したマルハナバチは、植物を傷付けることで通常よりも1カ月ほども早く花を咲かせられることが示された。

 この研究は2つの理由から大いに期待されている。1つは、マルハナバチは開花を操作できることが強く示唆されたこと。これは、地球温暖化が進み、開花時期より早く出現してしまったハチにとって、大変有用なスキルとなる。早春の間、マルハナバチの成虫と幼虫は、食料をほぼ花粉のみに頼っている。

【参考ギャラリー】世界の美しいハチ 写真9点(世界最大のハチも)(クリックでギャラリーページへ)
3色の体をしたマルハナバチの1種、Bombus ternarius。米ニューヨーク州のアディロンダックで採集。(PHOTOGRAPH BY SAM DROEGE, USGS)

 もう1つは、人間の食物供給に役立つかもしれないということだ。穀物の花を意図的に早く開花させることができるようになれば、ものによっては食料生産を増やせる可能性がある。

葉に穴を開けると数週間早く開花

 論文の筆頭著者であるパシャリドゥ氏とデ・モラエス氏ら研究チームは、実験用の網かごに、花粉を与えていないセイヨウオオマルハナバチ(Bombus terrestris)のコロニーと、開花前のトマトおよびクロガラシを入れた。その後、働きバチが葉に5個から10個の穴を開けたところで、両植物を取り除いた。

 すると、クロガラシは通常より2週間早く、そしてトマトは1カ月早く開花したことがわかった。

 研究者たちはまた、花粉を与えたハチと与えていないハチで行動を比べるため、それぞれのコロニーを網かごに入れて実験した。すると、花粉を与えているコロニーの働きバチはほとんど植物に傷を付けることがなかったのに対し、花粉を与えていないコロニーの働きバチは忙しく傷を付けて回った。

次ページ:「早く咲かせて」、ハチと花のコミュニケーション

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