「見えない地滑り」が海底で頻発、原油流出事故の原因にも

きっかけはなんと1000キロ以上離れた地震だった、メキシコ湾

2020.05.21
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 マクドナルド氏が言及しているのは、2004年、ルイジアナ州の海岸近くで発生した米テイラー・エナジー社の原油流出事故だ。この事故が起きて以降、1日1万リットルを超えるペースでメキシコ湾に原油が流出し続けている。あまり知られていないが、この事故は米国史上最悪の原油流出事故の一つと考えられている。原因となったのは、ハリケーンによって生じた海底地滑りだ。

 マクドナルド氏は2019年、学術ニュースサイト「Conversation」に掲載した記事のなかで、「原油流出事故の最悪のシナリオ」として同様の惨事が起きる可能性について警告している。

 英BP社による2010年の事故は1つの油田の掘削ミスによって引き起こされたものだが、テイラー・エナジー社の事故では、プラットフォームそのものが泥によって転覆し、複数の油田が破壊された。残骸は分厚い堆積物の下に埋まっているため、原油の流出箇所をふさぐのが難しい状況だ。

 マクドナルド氏の論文を読んだファン氏から連絡があり、「いくつもの有意義な会話」につながるやりとりが始まったと、マクドナルド氏は振り返る。マクドナルド氏はファン氏のデータに触れることで、化石燃料インフラのリスクは自身の認識よりはるかに大きい可能性があると気付いた。

「(今なら)過去10年間だけでも、こうした出来事をいくつも特定できます」とマクドナルド氏は話す。「つまり、ある意味、弾丸が発射されたことすら知らないまま、やりすごしてきたということです」

 今回の研究が、エネルギー企業や規制当局が新たなインフラを検討する際の判断材料になることを、ファン氏は期待している。今回検出された海底地滑りのほとんどは、メキシコ湾の西部で起きたものだった。オバマ政権下では、一帯の大部分が石油ガス探査の禁止区域に指定されていたが、2018年、トランプ大統領が解禁に踏み切った。

 ファン氏が考案した地震検出手法は、既存のインフラを守る早期警報システムの開発にも応用できる可能性がある。メキシコ湾の海底に地滑りの検出を目的とした地震計を配置すれば、プラットフォームの近くで信号が記録されたとき、警報が発せられ、企業は緊急停止のための貴重な数分を得ることができる。

 このようなシステムが実現すれば、原油流出事故も未然に防ぐことができるかもしれない。

文=MADDIE STONE/訳=米井香織

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