アフリカの村をのみ込んだ津波、千年前の証拠発見

インド洋の反対側で起きた津波は村をまるごとのみ込んだ

2020.05.16
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タンザニア、パンガニ川沿いの灰色の砂からのぞく人間の頭蓋骨。かつてはスワヒリ族の初期の漁村だった遺跡から発掘された。約1000年前、突然の津波で村が破壊され、多くの村人が犠牲になった。(PHOTOGRAPH BY VITTORIO MASELLI)
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 およそ1000年前、今のアフリカ、タンザニアの沿岸から数キロ内陸に入ったパンガニ川のほとりには、スワヒリ人の初期の村が栄え、賑わいを見せていた。格子に組んだ木に土を塗って家を建て、魚や貝殻でビーズを作り、簡素で機能的な陶器も使っていた。

 だがある日、はるかに離れた東インド洋で発生した地震による津波が、村を襲った。

 この大惨事について調査した新たな論文が、5月12日付けで学術誌「Geology」に発表された。なお、この研究はナショナル ジオグラフィック協会の支援を受けたものである。

 村人たちに激流から逃れる術がなかったのは明らかだ。家は破壊され、多くの人が溺れ、瓦礫の下に埋まった。論文の著者が知る限り、タンザニアの遺跡は、人骨が見つかった津波堆積物としては、東アフリカで最初かつ最古のものだ。ちなみに人骨を含む世界最古の津波堆積物は7000年前のもので、パプアニューギニアで発見されている。

上空から見たタンザニアの遺跡。パンガニ川に隣接する水を張っていない魚の養殖池の一部のように見える。奥にはインド洋が見える。(PHOTOGRAPH BY DAVIDE OPPO)
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 タンザニアの遺跡は、インド洋の津波研究における最新情報であると同時に、インド洋の津波がアフリカで壊滅的な被害を出し得ることを示している。この地域で大津波が発生することは比較的まれだが、およそ300〜1000年に1度ほどの頻度で発生している。タンザニアの経済の中心地ダルエスサラームは海岸沿いにあり、世界で最も急成長している都市の1つだ。国連の予測では、ダルエスサラームは、2030年までに人口1000万人を超える「メガシティー」となり、今世紀末までに7000万人を超えるという。

 2004年、インドネシアのスマトラ島沖で発生した大地震は、大きな津波を引き起こし、22万7000人以上の命を奪った。ただし、被害や犠牲者の大半は南アジアと東南アジアからだった。津波は東アフリカの海岸にも押し寄せたが、第1波がアフリカ大陸に到達したのは極端な干潮時だったおかげで、被害は軽減された。

 だが、1000年前に発生した津波は違った。「それほど大きな津波ではなかったようです。しかし、低地に住み、何が起きているのかわからない人たちにとっては、おそらく最悪の状況だったでしょう」と今回の論文を査読した米ワシントン大学の堆積学者で津波の専門家であるジョディー・ブルジョワ氏は話す。「インド洋の反対側だったので、地震の揺れは届かず、警戒すらしていなかったのです」

古代の災害を発見

 東アフリカの津波リスクは、これまであまり研究されてこなかった。「この種の情報は、政府や住民が知っている必要があるのです」と論文の筆頭著者であるカナダ、ダルハウジー大学の地質学者ビットリオ・マゼッリ氏は話す。

 同氏が1000年前の津波の研究を始めたのは、ダルエスサラーム大学地質学部に勤めていた2017年の春のことだった。同じくダルエスサラーム大学の考古学者で、北西150キロにあるパンガニの町の近くの遺跡を調査していたエリナザ・ムジェマ氏の研究を、たまたま知ったのだ。スワヒリ人の初期の漁村は、かつてはビーズや陶器が豊富に見つかっていた地域であり、大学はそこで考古学調査の正しい技術を教えていた。

 だが2010年、ムジェマ氏が学生を連れて行き掘ってみると、人骨が次々と見つかった。「どの学生も『先生、骸骨があります』と言うのです」と同氏は話す。「驚きました」

 同氏は2012年、2016年、2017年に遺跡の再調査を行い、バラバラの向きで土に埋もれた遺体を発掘した。中には、無傷の鉄のアンクレットを身につけているものもあった。戦争や病気が原因とは考えられなかった。切り傷や病気の痕跡は、骨のどこにもなかったからだ。調査の結果、村人は老若男女を問わず溺れ、粉々になった家の瓦礫の下に埋まったことがわかった。

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