信頼性の低い抗体検査があふれている、米国で問題

経済を再開するには正確な検査が欠かせない

2020.05.13
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ポーランド、クラクフのドボルスカ病院で2020年4月9日、マスクと防護具を着けて血液を採取する医療従事者。この血液は、新型コロナウイルスの抗体検査に用いられる。(PHOTOGRAH BY OMAR MARQUES, GETTY IMAGES)
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 新型コロナウイルス感染拡大に伴う外出制限の緩和や経済活動の再開をめぐって賛否が分かれるなか、既にウイルスに感染して抗体を持っている人が実際にどれくらいいるのかを調べる動きが加速している。

 パンデミックの規模を正確に把握すべき理由は様々あるが、本当の致死率(全感染者のうちの死亡者の割合)を知り、どれだけの人が免疫を獲得できているのかといった疑問に答えることもできる。それらは、この先やってくるであろう第2波、第3波に備えるためになくてはならない情報だ。

 その土台として注目されているのが、抗体検査だ。侵入してきた病原体と戦うために体の免疫系が作るたんぱく質を調べる抗体検査は、無症状感染者も発見できる。その抗体検査を使った初期の調査結果では、かなりの感染者がPCR検査で見落とされていた可能性が示唆されている。(参考記事:「外出禁止を解除する前に「抗体検査」をすべき理由」

 しかし、報告される数字には大きな開きがある。たとえば感染拡大が深刻だった米国ニューヨーク市では21%の被験者が抗体を持っていたことが判明したが、患者が少ないスイスのジュネーブでは約6%だった。地域差があるのは想定通りだが、結果がばらつく原因はほかにもある。調査結果を急いで公表しようとしたことも一つの原因であるし、さらに言えば検査そのものにも問題があった。

 新型コロナウイルスの検査は今、無法地帯になっていると専門家は言う。緊急時ということで規制が緩和され、正確性が低く認可もされていない検査が市場に氾濫しているためだ。

 それに加えて、データの収集法や検査結果の解析法に問題があれば、誤った感染者数の推計が導かれる確率が高くなる。通常なら専門家による査読で拾われるはずだが、世界中がパンデミックの抑え込みに必死になっている今、プレスリリースや査読前のプレプリント論文だけに頼った解釈が広がってしまっている。

氾濫する新型コロナの情報をどう読み解くべきか、ナショナル ジオグラフィック「研究室特別編:新型コロナ、本当のこと 神戸大学 中澤港」で連載しています。

 その良い例が、米カリフォルニア州サンタクララ郡の住人を対象にした抗体検査だった。4月17日、スタンフォード大学の研究チームは3300人を検査したところ、1.5%が陽性だったことをプレプリントで明らかにした。この結果を基に、サンタクララ郡での実際のコロナ感染者数は推計4万8000~8万1000人であると結論付けた。だが、当時報告されていた死者数は50人、感染者数は1500人だったことを考えれば、研究チームの数字はにわかには信じがたい。

 この調査は、多くの批判を浴びた。論文は査読なしに広く報道されたため、新型コロナウイルスは疫学者が言うほど致死率が高くないのではないかという議論も起こった。スタンフォード大学は後に論文を訂正して、感染者数の推計を他の研究と同程度まで引き下げた。(参考記事:「新型コロナの厄介さと怖さを知る:2つの致命割合CFRとIFRとは」

次ページ:調査対象に偏り

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